「まぁせいぜい、愛しの兄上に苦労してもらおうか」

「大聖杯だ。本当に存在するなら、いくら極東のローカル術式でももっと騒ぎになりそうなものだと思ったまでさ」
「誰かが情報を握りつぶしている、か？」

「フラット！貴様というやつは！！結界を貼る術式の授業で破壊する術式を作ってどうする！」

「いだだだだだ！！！」
「貴様は貴様は！毎度毎度才能にあかせて好き放題！お前みたいな才能があのころの僕にあったら…。僕だってなぁ！！！！」

「師匠？」
「あ。ゴホンッ！取り乱した。講義を続ける―――」

「喫茶店が閉店した！？」
「はい、師匠のお気に入りの店が電気系統の故障で閉店してしまって…」
「いくらイギリス人がお茶好きでもたかが喫茶店のことで…」

「時計塔始まって以来のショボさですわね」
「でも今夜には支障がお店に事情を聞きに行くって言ってましたから、きっと」
「頼みましたわよ、全く」

「…ん？ライネス？」
「少しいいかね、エーデルフェルトのご令嬢。聖杯戦争の話だ」

「業者に頼んだんですが、一人が行方不明、もう一人もなにか恐ろしいものを見たっていうだけで、もうこの仕事だけは勘弁してくれって」
「なるほど。少し調べさせてもらえるかね？」

「げっ歯類？いや違うな。動物科の魔術か。ここから電気が漏れている…いや吸収されている。毛皮あるもの、電気、青…そういうことか」

「稲妻の結界か。やはり魔術師の工房があるな。地下水道、工房、それに稲妻か。懐かしいな―――」

「！！！」

「すげーよ新入生！」
「カウレスだっけ！？お前最高だな！」
「別に珍しいものじゃないだろう」
「いや～フラットのPCは怖くて触れなかったから」

「あ、新型PCだ！しかもマルチモニタ！自作！？」
「あぁ、検索とデータベース管理に特化してるんだ」

「あ、グレイちゃん？うんうん」
「！！　いま、グレイたんって言った…？」

「なんでだ！なんで僕じゃなくお前にグレイたんから電話がかかってくるんだ！！グレイたんの声を！！」

「あの黄色くて丸くてふわふわの匂いのグレイたんと何があった！」
「それは」
「それは！？」
「ルシアン君が携帯を持ってないからじゃない？」
「―――――そうか。携帯があればグレイたんと電話ができるのかぁ」

「グレイたん！グレイたんグレイた～～～～～ん！！」

「師匠！！！」

「やつは電気を食って巨大化する力を持っていた。解除を試みたが純粋なパワー比べだと力にならん」

「フラット、マナのバランスを、反転………」

「……あの、拙はスヴィンさんに嫌われているんでしょうか？」
「えっ！？」
「いつも睨まれていますし、拙を見ると息を荒くしますし、落ち着かないご様子ですし」

「ルシアンくんはグレイちゃんのこと嫌いじゃないと思うよ」
「そうでしょうか」
「距離感取るの下手な奴だからね。俺に言われたら御終いだろうけど。俺はね、家でも時計塔でもまともに相手をしてもらえなかったんだ。先生と教室のみんなだけがおれをバカ呼ばわりしてまともに人間扱いしてくれた」

「俺だけじゃない。ルシアンくんもほかのみんなも。先生がいなかったら多分ただの落ちこぼれだったと思う」
「はい。師匠はいつも拙達のことを見てくれています」
「さ、早いこと怪物退治して先生のところへ戻ろう」
「はい、行きましょう」

「医者より先に電話をよこせ。連絡するところがある」

「エサ場ってところだな」
「…いるね！」
「見つけました」

「じゃあ行くよ！打ち合わせ通りに！」
「はい！」

「第一段階限定解除！！」

「先生が言ってたとおりだ。地下の魔力とこいつでけか気を張っていたからその流れを暴走させて反転すれば…」

「よくも面倒なことを。このグルドア・デヴナントの工房に押し入りそれをノックと謳うか。何処の馬の骨だ」
「ロード・エルメロイⅡ世の教室の方から参りました！フラット・エスカルドスとグレイです！」

フラット「失礼なこと言わないでください！先生はただの成り上がりではありません！一代でロードの地位を得た時計塔で一番の成り上がりです！！」

「直人の命の幾千幾万など我らが根源に至るための糧に過ぎぬ！そのような瑣末事で我が工房に侵入したのか！？殺しが目的ではない！過程に過ぎぬというだけだ！」

「これはまずいな。俺が一発派手にやるからグレイちゃんは逃げるんだ！」
「え！？でも！」
「一度言ってみたかったんだよね、こういうセリフ」
「そんな必要はない！」

「い、痛ってて。もうちょっと穏やかにやれないのかスヴィン」
「すみません、全速力というオーダーでしたから」