「あなた」

「賈氏」

「妹に会いに行ってきます。お正月でもなければ会えませんものね」

「後宮に行くのか」

「大丈夫です」

「気をつけろよ。俺もついていきてーがあそこに男は入れねーからな」

「はい」

「あら～？武生王の奥様じゃないの～～」

「ろりろり♪」

（妲己！）

「一緒にお酒を飲みましょうよ～」
「ああ…でも…」

「皇后さま、紂王陛下がお越しになられました」

「あは～ん♪遅いわ紂王様たら」

「陛下が？いけません妲己様！臣下の妻が主君に会うことは礼儀に反します」

「妲己～余も宴会に混ぜてくれ～」

「お？誰だ」

「武生王の奥様ですわ」

「何？これは失礼した」

「待って？紂王様。賈氏ってすごい美人ですわよ。…わらわなど足元にも及ばない程に」

「一目ぐらいなら」

「妲己！あなたという人は！」

「どれ、顔をみしてみぃ」

「はっ！」

「えへへもう逃げられないぞ賈氏とぅわ～ん」

「妲己ほどとは言わぬが余のベスト５には入るぞ」

「私に手を触れるな」
「え…」

「私は武生王、黄飛虎の妻。それが私の誇り。誰にも汚されない」

「いい女だ、本気で余の物にしたいな」
「陛下おやめください！」

「臣下の物は陛下の物よん」

「余の物になれ」

「断れば夫にも罪が及びます」

「わかりました。たった今から私は陛下の物」

「でも心までは自由にできない」

「賈氏！」

「いや～～～！姉さま！」

「私がここにいるせいで兄や姉さまの足かせになっていたの」
「黄氏」

「兄さま、自分の思う道を進んで」

「ぷっくっふはははは、どわーはっはっはっ」

「…」

「もう駄目じゃわらかすの～、偽物よ」
「に、偽物？」

「そうだ～、姿かたちはそっくりだが全体的な違和感はどーしても消せぬようじゃのう」

「そして何よりも本物の妲己はスープーの事をスープーシャンちゃんではなくスープーちゃんというのだよ！」

「！」
「そこ？」

「仙人界に変化の術を使える天才導師がいると聞いたことがある」

「名は確か…楊戩」

「参ったな、名が知れてることが仇となったようだ」

「よくぞ見破られました。太公望師叔。いかにも僕は崑崙山脈玉泉山は金霞洞玉鼎真人の門下、楊戩です」

「はは～～～超美形っすよ。彼の方が主人公っぽいっすね」
「だまれ」

「スープーよ、振り向かずに聞け」
「へ、なんすか」

「誰かがつけてきておる」
「ええ？」

「この匂い…どこかで嗅いだことはないか？」

「匂いっすか？…！この匂いはだ！だ！」

「落ち着くのだ！いいか！１・２の３で振り向くのだぞ」

「１」

「２」

「「３！！」」

「あ～～～～ん」
ドヴァズピプォー♪
「お久しぶり～ん」

「ぎゃ～～～～～」

「こ。腰が抜けたっす！」
「スープー…」

「うふ～ん、やっと見つけたわ太公望ちゃん」

「な、なんでこんなところに妲己が居るっすか」
「それはもちろん、貴方達を亡き者にするためよん。スープーシャンちゃん」

「…！」

「かわいそうだけど、新しく手に入れたこの宝貝三尖刀で刺身にしてあげるわん」

「やめよ妲己！」

（お？なんか変っすね。妲己は人にやらせて自分は何もしないタイプっす。なのにお供が一人もいないなんてまた何かの罠っすかね）

「さぁあなたの全力をわらわに見せて～ん」

「セクシーふくらはぎ攻撃で悩殺よ～ん」

（人間に化け続けることなんて僕には簡単な事だった。人間社会において
嘘の自分で居ることは本当の自分を晒すより楽だもの。ただしその代償として師以外の誰にも心を開けなかったけど）

「さぁ帰ろう、楊戩。風邪をひかぬようにな」

(心を開く必要なんてない。僕は一人で何でもできる。僕は全てを持っている）

（けれどあの日僕は…あの人に会ってしまった）