『またいつもの頭痛だ…。俺は早退するぜ』
（そうだ。いつも頭痛だとか言ってどこかへ消えちまう奴だった。俺の方から相川を捜すのは無理かもな…）

「ナイフを使えよカイマン！お前はナイフを持ってこそ強い！」
「ぐはっ！っ…なんでだよ、ニカイドウ！」
「煙の敵は私の敵だ」
「ふざけたことばっか言いやがって！目ぇ覚ませ！」

「我らが偉大なるサタンよ！我が望みを聞き入れたまえ！どうかニカイドウが死にますように！悪魔大王万歳！悪魔大王万歳～！」

「お前の言う通りもう終わりにしよう」
「ニカイドウ！？やめっ…」

「ああああ、頭が痛ぇ！」

「誰だ！？――鏡か」
（また殺すのか）
「！？」
（また、殺すのか仲間を。友を）

「カイマン、どこに居る！？」

「静かになったな？あ、もしかして！おーいニカイドウ！」
「……」
「やったぁ！ニカイドウが死んでる～！ばんざ～い！」

「まだ死んではいない。深い傷だ」

「！　これは煙との契約書だ」
「それちょうだい！俺にちょうだい！」
「いま見たことを煙に話さないと誓うなら」
「誓う！誓います！」

「アス！？」
「安心しろ、契約書は取り出した」

「それより誰にやられたんだ。まさかカイマンに？」
「いや、私を刺したのは違う男だ。誰か別の…。まだいるはずだ。この闇の中に…」

「契約書は煙の内蔵の一部なんだ。これを取り出したことで煙にも何らかの影響が出ているはずだ」

「ニカイドウ、君が元に戻ったのは一時的なものだ。煙が死ぬか、チダルマが契約を解除するか、あるいは次のブルーナイトで契約を破棄しない限り有効なのだ。煙の契約書はもう君の体の一部と化している。煙に会えば再び君の体内に契約書が現れるだろう。煙の手が届かない遠くに逃げなければ」

藤田「大丈夫ですか煙さん！」
煙「あぁ…。問題ない、少しくらっとしただけだ。ニカイドウは教会にいるようだな」

「居ないな。カイマンもあの男も」
「危険な奴だ、気をつけろ」
「上からは誰も降りてきてなかったよ？俺見てたもん！」

「君を刺したのはどんな男だったんだ？」
「暗くてよく見えなかったけどカイマンじゃなかったのは確かだ」

『予定通りだよ』
カイマン（俺はどうなったんだ？俺は何を急いでいるんだ？）
『俺の家にはいくな。あれがいるんだ』
カイマン（そうだ。俺の中で何か邪悪なものがどんどん大きくなり、そして――）

「災難だったな。お前、頭に魔法をかけられたんだぜ。この人がここまであんたを運んでくれたんだぞ」
「やぁ！」

「嫌だ！」
「じゃあ何が良いってんだ！？」
「どうしたの」
「こいつの名前がまだ決まらねーんだ。俺の考えた名前が気に入らねーってよ」
「何て名前？」
「ウロコン」
「やだーっ！！」

「今日はお見舞いにうちのギョーザを持ってきたんだ」
「ぎょーざ…？うまぁい！！」

「実は私も君の名前を考えてみたんだけど。トカゲの図鑑を見て君に似た奴を見つけたんだ。カイマントカゲってやつでさ。だからカイマンってのはどうかな？」
「カイマンか。なんかどっか懐かしい気がする。自分の本当の名前に近いのかな？」
「気に入った？」
「うん」

「カイマン、カイマン！大丈夫か？！」

「お前が魔法使いなら―――」
「！？」

「口のやつになんて言われた、ニカイドウ」
「お前は違う、って」
「本当か？信じられねぇ」
「本当だって信じろ！」
「信じられるか魔法使いめ！」

「聞いてくれカイマン、口の中の男は栗鼠だったんだ」
「何――！？」

「とにかく、あんたらには明日ホールに帰ってもらう」

「でもニカイドウが…」
「あの女は諦めな」
「分かった。明日帰るよ」
「悪ぃな。泣くんじゃねーぞ！」

カイマン「口の中の男が栗鼠なら俺に魔法をかけたのは栗鼠なのか？」

「栗鼠なら今、デリスという街にいる」
「だいたいテメェは誰なんだ？何か知ってるならいっぺんに言え！」
「テメェとは何だ、地獄に落とされたいのか」

「ニカイドウ！居るのは分かってるぞ！出てこないと夕飯抜きですよ～、ホラ出ておいで～」

鳥太「やばいよ！煙がここに来るのは時間の問題だよ！」
アス「二人は遠くへ逃げるんだ！」
ニカイドウ「アス！！」
カイマン「やだねこんな嘘つきと！」

「ど、どーも…」
「どうした！一体何があったんだ！」
「いっひひ～。ちょっとむしゃくしゃしちゃって、教会壊しちゃった～♡」
「気にするな、お前が無事ならそれでいい」

アス「うまくいったようだな」

「ニカイドウ、私はずっと君に何かしてあげたかった」
「アス、ちょっと待っ―――」

「私はこれからチダルマに会いに行かなくてはならないんだ。奴の呼び出しを無視することはできん」

「でもさ、ニカイドウが居ないと知ったら煙はすぐにでも探しに行くよ」
「それなら考えがある」
「うわあああ！？」

「私のパワーを最大限使って君をニカイドウに変身させた。これでしばらくは煙どころかチダルマさえも騙せるはずだ」
「ふざけんな！勝手にニカイドウなんかにしやがって！どういうつもりだテメェ！！」
「テメェとは何だ、地獄に落とすぞ」

鳥太（待てよ？俺が煙の嫌がることをすればニカイドウとの仲を引き裂くことが出来るじゃん！）

「いいよ、俺演技力には自信あるんだ。任せてよ」
「何を考えていたか分かっているぞ。バレるようなことはするな。目立つこともするな。いいな？」

（それにしてもニカイドウを刺した男はどこへ消えたのだろう？いやもしかしたらそんな男はいなかったのではないか？――考えすぎか）

「！　カイマン、こっちに来い！見ろ、悪魔だ。アス以外の悪魔に見つかったらすぐさまほうこくされちまう」

「夕方から夜は悪魔が多いんだ」

「…なんでホールで人間のふりなんかしてやがったんだ」
「私の魔法のせいで友達を…なくしてしまったから」
「友達を？」

「私は人間になりたかった」
「なんで俺に手を貸した！？なんでだ！」
「人間を練習台として使う魔法使いと戦えば、心の底からホールの人間になれると思った。あと、お前となら本当の友達になれると思ったから…」
「！！」

「お、おれは昔の記憶が無いんだぞ…？顔もこんなだし…。俺がどんな人間か分からなくてもそれでいいのか！？」
「お前はどうだ？やっぱり、私が魔法使いじゃダメか…」
「ま、ままま魔法を使わなけりゃ魔法使いじゃないだろ？」

「お前が魔法を使わないって約束できるなら、だが」
「約束する！」

「じゃあずっと俺のダチだ！」
「本当のお前がどんな奴でも、何があっても、私たちは友達だ！」
「おう！」

《俺の名はカイマン。自分の顔と失った記憶を取り戻すため俺に魔法をかけた奴を捜している。今は何もわからない。すべてはまだ混沌の中にある。だが混沌にもいつか終わりが来るはずだ。俺はそう信じている。》