「少しは落ち着いて食せ」
「無理！うますぎて止まらない！」

「味覚がない私には理解不能だ」
「なんと不幸な…。うまいと嬉しい。わからないのは絶望的」

「ぬくい、めんこい、もふもふだ～～～」

「一つ訊ねたいのだがこの辺りに町はあるか？」

「この森を抜けた先か、把握した。感謝する」

「父さん、動物と話せるのか？」
「可能だ。獣と意思疎通し森を統括する。守り人特有の能力だ」
「こいつはたまげた」

「ソマリ、足元が劣悪な故、走ると危険…」

「ソマリ、壊れたパーツはないか？」
「お父さん！ソマリは物じゃないぞ！」

「では訂正する。怪我はないか？」
「無い！」

「見た目よりも深い傷のようだな。薬は切らせている」

「すごく痛くなってきた」

「薬～。薬が欲しい子は居ないかね？」

「先程から…やはり鬼の一族だったか」
「あらら…やっぱり気づいてたんだね。僕は小鬼のシズノ。こんなところにゴーレムなんて珍しいね」

「それは？」
「傷薬、任せといて。僕は薬師。薬草や自然にあるものから薬を作るのが生業なんだ」

「はい応急処置完了。でもちゃんと手当したほうがいいかもね。
続きはぼくんちでしよっか」

「シズノ！おまえまた片付けサボりやがって！」

「全然痛くなくなったぞ。ありがとう、シズノってすごいんだな」

「なんの匂いだ？」

「さっきはすまなかった、俺はシズノの助手でヤバシラだ。
これでわびになるかはわからんが食ってくれ」

「これ全部ヤバシラが作ったのか？」
「まぁな。似合わねぇだろ？」
「ううん。すごい。こんな美味いお菓子が作れるなんてヤバシラは天才だな！」
「ありがとよ」

「助手なんだからヤバシラがやってよ～～」
「助手は家政婦じゃねぇっての。本来の役目は仕事の手伝いをすることだ。
シズノは薬作りの腕だけはいいからな」

「シズノ。私に薬づくりを伝授してくれないか？今日のように市販薬が尽きたら自生している薬草を使用できる、
緊急時に対応できる」
「うん、構わないよ。でもその代わり君の体の一部が欲しいな」

「父さん、痛くないのか？」

「問題ない。ゴーレムに痛覚は存在しない」

「シズノ様のお薬教室はっじまるよ～～～」

「なるほどこうしてヤバシラの仕事が増えるわけだ」

「もっとお手伝いするぞ！」

「無理すんなって疲れただろ？まだ子供なんだ、遊んで待ってればいいじゃないか」

「お父さんはいつも色々してくれる。ご飯も薬も。さっきだって痛くないって言ってたけど…
だからソマリも頑張るんだ！」

「本当にあいつの事が大好きなんだな」
「うん！」

「じゃあもうひと頑張りすっか」

「ねぇどうしてそんなに薬を作りたかったの？」
「その方が効率的だと説明したはずだが」

「腕に巻いた布、ブーツ、ベストも随分着込んでいるよね。それって表皮がこれ以上剥がれないように気を付けているんじゃないの？
これ…きっと剥がしちゃダメな物だったんだよね。なのに僕ってば…」

「ソマリと同じ顔をしている。先ほど森で怪我したソマリも今のシズノと同じような顔をしていた。顔の筋肉をゆがめ眼球が潤んでいく。その表情を見つめていると思考が乱れた。

主にここが落ち着かない」

「つまり君は心が痛かったんだね。」

「発現の意味を理解しかねる。ゴーレムには心も感情も備わっていない」

「でも、ソマリちゃんに泣いてほしくなかったんでしょ？君はとっても優しいゴーレムなんだね」

「ソマリの両親を探している。見つけて手渡す為に。」

「あるんだよね、急がなきゃならない理由が」

「ゴーレムの寿命を知っているか」
「長寿だって本で読んだことあるけど」

「そう。1000年生きる。そして、1000年丁度に終わる。わたしは既に998年と253日生きた。あと1年と112日で
生命活動を終了する。故にその時までにソマリを本当の両親に届けなければならない」

「ソマリちゃんは知ってるの？君の寿命のこと」
「……いや…」

シズノ「別れるための旅ってことか。それって残酷な話だよね。君の傍にいる時のソマリちゃんはとても幸せそうなのにね」

「幸せ？ソマリがそのような感情を？」

ヤバシラ「鈍いやつだな。でなきゃあんなふうに笑ったりしないだろ」

「足りなくなったら次はこいつに作ってもらえばいいさ」
「お父さんに？作れるのか？」
「…善処する」
「いや、そこは約束してやれよ」

「随分変わったゴーレムだったね」
「あいつらにとっていい旅になればいいんだけどな」
「そうだねそれにまだまだ秘密もあるみたいだし…
また会えるといいよね。あの不思議な親子に」