「歴代の勇者様の多くはお役目の中で命を落とされました。2年前には人類を守るために三ノ輪銀様が落命」

「銀様は人類を守ろうと懸命に戦い、見事にお役目を果たされ英霊になられました」

「友奈様もまた、戦い方は違えど皆のためにその身を捧げようとしています。それこそが勇者であると理解して」

「だから私たちにも納得しろと…？」

「歴代の勇者と巫女…みんな私たちと同じ年齢ってわけでしょ？」

「いつだって子供たちを犠牲にして生き延びてきたってことじゃない。そんな歪な世界ってあるの！？」

「それしか方法がないのなら、すべてを生かすためにはやむを得ないのです。それがこの時代における人の在り方」

「止むを得ない…！？」

「そうよ」

「ピーマンが嫌い…だったよね」

「すっごく厳しいけどふとした瞬間に見せるチャーミングな所が、私は好きだったよ…。でも今は…昔の秋先生じゃないんだね…」

「銀の時、一緒に悲しんでくれたのに…。その辛さを知っているならもう、一人の犠牲なんて！！」

「あなた達のクラスメイトとその友達は、家族は、もうすぐ来る春を待ち遠しく思いながら家でうどんを食べて、暖かい布団で寝て、今日も平和な日常生活を送っている。少々の犠牲で、このやり方で、大部分の人たちが幸せに暮らしているのです」

「それなら…」

「それならあなた達が人柱になればいいのに！！！！」

「できるものならそうしています。だが私たちでは神樹様が受け入れない。こういう事に怒れるあなた達だから、受け入れているのか…」

「友奈さんが言うように勇者はみんなを幸せにするために頑張ってると思うんです…」

「そうだよ。だから私頑張ってるよ」

「え…でも…」

「みんなっていうのは、自分自身もそこに含まれているのよ友奈！？」

「し、幸せ…だよ、私は。それでみんなが助かるんなら」
「嘘よ！！」

「ゆ、勇者部五箇条！なるべく諦めない！私はみんなが助かる可能性に賭けているんだよ！？」
「あんたが生きることを諦めているじゃない！」

「勇者部五箇条！成せば大抵なんとかなる！成さないとなんにもならない！！」

「友奈！五箇条をそういう風に使わない！！」

「私は私の時間がある内に私のできることをしたいんです！！だからこうしてみんなにきちんと相談しました！！」

「これじゃあ報告だよゆーゆ。相談しなきゃ…」

「相談してるよ！！！」

「ゆ、友奈、その、とにかく無理すんな…」

「無理してないよ！！！勇者らしく！私らしくしてるよ！！！」

「ご、ごめん…」

「待ってくだ…」
「友奈！！！みんながここまで言ってまだ分からないの！？？」

「だから他の方法が無いからこうなっているんです！！！」

「待って…」

「なんで…なんでこんな…喧嘩なんて…っ」

「樹ちゃん…」
「樹」
「うわあああああっ」

「私は………」

「私には本当に、時間がなくて…もう…」

「！！！」

「友奈ちゃん！！？」
「ゆーゆ！！」

「私は嫌なんだ…誰かが傷つくこと、辛い思いをすることが…それが今回は私一人が頑張れば！！」

「ダメよ！友奈ちゃんが死んだらここにいるみんながどれだけ傷ついて辛い思いをすると思うの！！？」

「私、想像してみたけど…後を追って腹を斬っているかもしれない！」

「で、でも…東郷さんだってみんなを守るために火の海に行ったでしょ？あれだって自分ひとりで世界を救えるからって思ったからでしょ！？」

「そうよ！でも壁を壊した私の自業自得でもあるのよ！」

「友奈ちゃんは悪くないじゃない！反対よ！！腹を斬るわよ！！！」

「そんなの、ずるいよ…私は、東郷さんの代わりに…」

「っ！」

「代わりに…なに…？友奈ちゃん…？」

「あ、あの、頭を上げてください」

「きょ、今日はなんの御用でしょうか？」
「友奈様に、急ぎお話しなければならないことがあります。ご両親には全て了解していただいております」
「な、何ですか？」

「私たちを約300年の間守ってきて下さった神樹様の寿命が近づいております」
「え…」

「神樹様が枯れてしまわれれば外の炎から守る結界が無くなり、我々の暮らすこの世界は炎に飲まれ消えてしまいます」

「消える…？」
「遺憾ながら」

「待って待って、いきなり過ぎます！消えるなんて…そんなのだめ…」
「おっしゃる通りです。人間を全滅させるわけには参りません。全滅を免れ、皆が生き延びる解決法を我々は見つけております」

「あの、これって勇者部全員で聞いたほうが…」
「まずは友奈様にだけお話を」

「皆が助かる方法はひとつ。選ばれた人間が神樹様と結婚するのです」

「へ？結婚！？結婚って…あの結婚ですか？」
「はい。神との結婚を古来、神婚と言います。神と聖なる乙女の結合によって世界の安寧を確かなものとする儀式、それが神婚」
「あの……それだとみんな助かるん…ですか？」
「はい」

「助かる……」

「神婚することで新たな力を得て人は神の一族となり皆永久に神樹様と共に生きられるのです」

「ご理解いただけましたでしょうか？」
「よく分かりません。でも、とにかく全滅は…」
「私たちも友奈様と同じ気持ちです」
「神婚が成立すれば、選ばれた少女の存在は神界に移行し、俗界との接触は不可能になります」

「えっと…」

「神婚した少女は死ぬということです」

「そして神婚の相手として神樹様は友奈様を信託で示されました」
「なんでまた私を…」
「心も体も神に近い存在、御姿だからです」

「天の神が友奈様を生贄にしているのも、理由は近いかと」

「私が…神婚するって」

「私たち大赦は人類が生き延びるために様々な方法を模索し続けてきました。そして神婚という選択肢のみが残されたのです」
「あの、すみません…すぐ答えられなくて…頭が追いつかないっていうか」
「天の神の怒りを背負われている…さぞお辛いでしょう。祟のために皆にこのことも話せず」

「話せないなら話せないでもっと賢いやり方もあったかもしれないんですけど、私」

「友達を傷つけちゃって」

「皆を慈しむ心…友奈様は素晴らしい勇者であると私は思います」
「そんなことはありません！」
「その友達を、人間を救うことができるのは友奈様だけです」

「神婚したとして、その、人が神の一族になってずっと生きるっていうのは？」

「言葉通りの意味です。我々を神樹様に管理して頂く優しい世界。人は死んでしまえば終わりですが神の眷属となり神樹様とともに生きていけば希望が持てます」

「…それってみんな、ちゃんと人間なんですか？」

「神の膝下で確かに存在できます。信仰心の高いものから神樹様のもとへ」

「この世の全ての人をお救いください。どうか慈悲深い選択を…」

「はぁっ、はぁっ」

「最近、暖かくなってきたね」
「うん…」
「もうすぐ春だ」
「うん…」

「東郷さん、わたしね」
「うん…」
「結婚する」
「うん…」

「うん！？？」

「突然ですが、結城友奈は結婚します」

ドサッ

「ななな何を言ってるの友奈ちゃん！！！まだ中学生なのに！！大体相手は！？？」

「神樹様だよ」

「え…？」