「ス――」

「オーディション受かったよ！」
「凄い！なずなならやれるよ！頑張って！」
「うっ…！？」

（お父さんお母さん、私はこの部屋で閉じこもっているよりもアニマシティで生きていきます。どうか心配しないで。みちる）

「ジムさん、あの大きなビルって何ですか？」
「シルヴァスタメディカルセンター、シルヴァスタ製薬の直営機関だよ、研究所と病院がある」

みちる「ちょ！？何するの！」

「静かにしろ。お前が人間だったことは分かった。お前の存在は危険だ。人間が獣人になるなんて人間が知ったらパニックになる。仔細が分かるまで外に出るな」
「何言ってんの！？マジ意味わかんない！」
「俺を信じろ。獣人の平和は俺が守る」
「いや格好いい風に言われても信用できないから、キモイから！」
「一歩でもそこから出たら殺すぞ」

「シルヴァスタメディカルセンターに脅迫状が届いたと所長から警察に連絡があった。そして今朝、シルヴァスタの薬剤を積んだトラックが爆破された。儒人の病院を作り、最新鋭の機器をそろえる金があるなら人間のために仕え、それが犯人の主張よ」

「あなたのその卓越した嗅覚なら警察の捜査班より頼りになる。お願い、爆弾を探し出して」

み「（病院が爆破されたら私の病気、もう治らないかも…！？ヤバ！激やば！！）助けてー！市長さーん！！」
市「…声がしたようね？」
士「いや？」
み「助けてー！監禁されてまーす！」
士「クロだ、最近モノマネを覚えた」
市「どかして（家具を）」
士「………」

み「市長！この人、女子誘拐監禁犯です！出たら殺すって言ってました！脅迫罪もです！」
士「おい」

「あなたがみちるさん、姿だけ見たら立派な獣人ね。とてもこの間まで人間だったとは思えない」

「爆弾探すの、私にも手伝わせてください！」
「危険だ。反獣人派の人間がこいつの事を知ったら何が起こるか…」
「じっとしてるのは嫌！ここに来るまでずっと息をひそめてた。逃げだしてからは獣人狩りの目を逃れてやっとこの町にたどり着いたのに、また隠れて生きるなんてもう絶対嫌だ！」

「彼女が元は人間だなんて分からない。アニマシティを動く分には問題ないんじゃなくて？ただし私たち以外に人間だったことは口外しない事。監禁脅迫罪にも目をつぶってあげられる？」
「分かりました……」
「じゃあこれ。クロが何か見つけたら大神君に連絡して」

士「シルヴァスタ製薬は世界有数の資産家、シルヴァスタ財閥のグループ会社だ。獣人にも人間と同等の権利を、という市長の言葉に賛同しアニマあしてぃにも多額の資金援助をしている。それが気に食わない人間も多い。ただシルヴァスタ製薬が獣人のデータを使って金儲けをしているという噂もある。獣人がみんな歓迎しているわけじゃない」

「メディカルセンターに爆弾の匂いはないが念のためだ。爆弾犯の本当の狙いはシルヴァスタのはずだからな」

「これで最後ですからね！」
「冷たいねぇ。そっちも散々いい思いしておいて」

ギャング「――おい！そこで聞き耳立ててるヤツ！何もんだ、出てこい！」
みちる「しまった！！」
ギャング「とっ捕まえろ！」

「あの顔どこかで…？―――はっ！！」

みちる「早く出て！！」

三村職員「こいつは！やっぱりあの娘です！」
矢場所長「あぁ……」

「行け、殺しはしない。今日はな」

「間に合ってよかった。クロウが知らせてくれた」
「何度も電話したんだよ！」
「すまん」

「メディセンの裏で怪しい人たちが荷物を積みこんでるのを見た」
「職員と組んで物資の横流しか…」

「お前は待ってろ！」
「嫌だ！」
「危険だ」
「本当は人間だけど今の私はやっぱり獣人」
「何を言ってる？」
「獣人はあなたが守ってくれるんでしょう。だったら守って！私も獣人なんだから」
「口だけは……」

「これも連続爆弾犯の仕業だね？警察の責任は大きいぞ！」

警察「大神君が見落とすとはねぇ」
士郎「爆弾の痕跡は確実に追跡した。なのになぜ？―――これは！（匂いがない？）」

「あの娘だ！わざわざ戻って来たぞ！」
「なんですって！？」

「メディセンが爆破されたんだって？怖い世の中だねぇ」
「爆破されたのは研究所のデータ管理部門です。病院のデータは別施設で管理していたため無事でした」
「事故現場の復旧は迅速に。凄惨な事件の痕跡は何一つ残さない様に。何一つ」
「はい………」

「現場に何のにおいもない時間があった。それはあり得ない。完全消臭する特殊な薬品でも使わなければな」
「この研究所ならそんな薬品も開発できるんじゃないですか？」
「私、個々の職員がギャングと取引してるのを見ました！あなたもそれに絡んでるんじゃないですか？」
「その証拠を消すために爆弾犯を装い研究所を爆破した」

「現場に残された残留香を追跡すれば必ず犯人にたどり着く。なぜなら匂いを持たない獣人などいないからだ。だが全くの空白の時間と場所があった。そしてあなたの両手もにおいが消えたままだ。この研究所が爆破されてからずーっとね…」

「矢場さん…。署でゆっくりお話を聞かせてもらえますか？」
「ぐおおおおおおお！」
「動くな！動くとこの娘を絞め殺す！！」

「己の保身のために事件を偽装する、そんな卑劣な男など素手で十分だ！！！」

「お前さえいなければこんなややこしい事にはならなかった！！」

「余計な真似をすると本当に殺すぞ！金とヘリは！？」
（この人本気だ…！この前みたいに手が伸びたら…！）

「うわああああ！！！！！」

「はっ！士郎さん、士郎さん？！」
「生きてるよ…どいてくれないか…」

警察「動かないほうが良い、治療させよう！」
士郎「いや、いい…」
警察「やれやれ…」

「あの、ありがとう。助けてくれて」
「約束だからな。獣人は俺が守る」

市長「矢場と三村が自供したわ。彼らは共謀して横領を働いていた。それが上層部に気付かれたと悟ってメディセンのデータシステムを爆破。金で雇った犯罪者で架空の爆弾犯を仕立て上げ、横領のデータを消そうと考えたわけね」
みちる「それだけなのかな…？あの三村って人の悪意、もっと強烈だった」

「身を守るために自分の研究所爆破するとかどうかしてるよ。そうやって都合の悪いことを隠して誤魔化そうとすよね”大人は”」
「俺のことを言ってるのか…？悪かった。もう閉じ込めたりしない」
「！？」
「え？」
「あんなにムキになってたのに！」
「あいつらとは一緒にされたくない。だからお前も獣人病の事は誰にも言うな」
「分かってる！」

「あなたの治療法、私も探ってみる」

士郎「シルヴァスタ製薬には気をつけろ。あそこはどうも胡散臭い」

「なんで」
「理由はない。ただ俺の花がそう言ってる」
「ハハッ。野生の勘！ってやつ？」
「おまえ…バカにしてないか？」
「全然？」

「諸君、ここでの研究は終わりだ！獣人の本拠地がどんなものか、この目で確かめようじゃないか」