「マー君、学校生活はどう？何かあったら言ってね。お母さん力になるから！」「マーくん、サラダのドレッシング、置いておくわね」

「マー君？お母さんの話聞いてる？ねぇマー君ってば？？」

「あら？何書いているの？マー君」
「勝手に見るなって！邪魔！」

（”最近母親に言われて嫌だったことは何か？”俺をあだ名で呼ぶことが苦痛すぎる）

「幼い頃からこの名でさんざんからかわれた結果として、こうなったらもう自分から押していこうと心に決めた白瀬ですとお知らせします」
「斜め上の生き様ですね」

「これってまさか！？」
「そう！これはまさかの展開です！」
「ゲーム世界への転送！？」

「マー君！？待って！マー君！」

（母さん。ごめん、俺行くよ。俺、気恥ずかしくていつも母さんに悪態ばかりついてた。でももし俺がこれからすごい冒険をして強くなれたらもっと素直に母さんと向き合えるようになるのかな。いつか必ず帰ってくる。その時にはただいまって抱きしめるくらいのことはしてやりたいかな……）

「マジで！？本当に！来たぁぁ！来ちゃったよゲームの世界！こんにちは非現実！これだよ、こういうの待ってたんだよ！よっしゃよっしゃ～～！！」

「もぅ～。マー君ったら」
「えっ……？」
「お母さんも行くから待ってって言ったのに全然待ってくれないんだもの！お母さんすっごく悲しかったわ」
「え！？」

「これからお母さんといっしょにたくさん冒険しましょうね。マー君！」

王様「普通は普通じゃよ。世界を救うなどという大それた事ではない。普通に仲がよく、普通に幸せ。その姿を体現することこそ普通の勇者である真人殿と普通の勇者の母親である真々子殿、ふたりが目指すべきものじゃ」

「簡潔に言うとこれはつまりオンラインゲームのクローズドβです。うまく説明できない特殊な技術でユーザー本体をゲームに転送しました。それではテストプレイしてください、ということじゃ」

「なにゆえ母親が共にいるのか。それはこのゲームの目的に深く関わっておる部分であり説明してしまえば運営の意図を強制することになりかねん。そうではなく、冒険の中で自ら気づき、自ずとそうなることが最も望ましい。よって勇者真人よ、全力でお茶を濁すべく超豪華な初回ボーナスをやろう！！」

「最近の人は贅沢なのね。昔の勇者はみんな木の棒を握り締めて旅に出たのに」
「ファミコン世代は黙ってろ！」

（なんだろう、俺に会うのは絶対にこれだ！間違いない！）

「それじゃあお母さんも剣をお借りしようかしら」
「母さん！？」
「よいしょっ」

「一本だけ残したら聖剣さんが寂しくなっちゃうものね」

「それにしても切れ味がとっても良さそう！これでお料理してみてもいいかしら？どう？マー君！」

「バトルスタート！」
「見ていてねマー君。お母さん頑張るから！」

「お母さんは負けないわ。だってマー君に良いところ見せたいもの！」

「マー君！今こそマー君の力を見せる時よ。頑張って！」
「あぁ、はい。―――はぁぁぁっ！！」

「やったわねマー君！すごいわすごいわっ！」
「……」
「どうしたのマー君！もしかしてどこか怪我をしたの？！お母さんに見せて？？」
「違う、そうじゃない。これ何か間違ってるだろ…？なんで、なんで！なんで母さんは通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃なんだよ！！」

「おれ、しょぼいわぁ…」
「そんなことないわ！マー君の攻撃すごかったわよ！マー君とっても格好よかった！」

「行っていいから。俺のことは放っておいてくれていいから」
「そ、そんな…。ガイドブックには、あなたの攻撃が通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃と知ったらお子さんは大喜びです、一緒に冒険しようと抱きついてくるでしょう。って書いてあったのに……！」
「まぁ基本的には喜ぶところだと思うけどさ…」
「じゃあどうして？まさか…まさかとは思うけど、もしかしてお母さんがお母さんだから？」

「青少年男子のためのファンタジーに親の存在は不要なんだよ！邪魔なんだよ！」
「むぅ。マー君の言い方は意地悪だわ！お母さんプンプン！」
「そういうのいらないから」

「つまり。何か知っているけど俺には話さないんだな？なぁ母さん、本当いい加減にしないと…」
「な、何かしら？」
「親子の縁を切るぞ！」
「！！」
「あっ……、今のは―――」

「ごめんなさいね…。お母さんね、何をどう説明したらいいのか、よく分からないの…。白瀬さんたちにも、色々事情があるみたいで、どこまで話していいか、分からないの……っ。でもね。お母さんはマー君を騙すとか、マー君を傷つけるようなことをしようとしてるわけじゃないの…。それだけは信じて」

「マー君と一緒に冒険して、たくさんお話して、一緒にいろんなことを頑張って、仲良し親子になりたいなって…ただ、それだけで……！」

「もう分かった！分かった、バッチリ理解したからっ！」
「だからねマー君…」
「は、はい」
「親子の縁を切るなんてそんな悲しいこと言わないで…！お母さんね、生まれてから今まで聞いてきた言葉で一番辛い。悲しい」

（なにやってんだよ俺…！）

「母さんごめん、今のはつい言っちゃっただけで！本当はそんなつもり全然ないから…！だから、そのっ」

「お母さんね。お母さんの事を気遣ってくれる優しいまーくんが大好きよ」

「お母さんはマー君と一緒に冒険したいわ。お母さんを、マー君の仲間にしてくれる？」
「まぁ、その。仲間になってもらって良いっていうか。そ、そうだな。一緒に来ればいいよ…」
「はい。じゃあそうします。これからよろしくねマー君」
「うん、まぁ、こちらこそどうぞよろしく。母さん」

「ここが最初の国、カーサーン王国か！」

「お母さんとマー君は、冒険する準備をしなくちゃいけないわ」

「まずは」
「冒険者ギルドで仲間集めか！」

「ここは完全無糖で甘くねーぞって感じだな。フッ。上等だぜ！」
「普段はああ、とかいいしか言わなかったマー君がこんな格好つけたことを言うなんて！息子の新たな一面を発見しちゃったわっ」

「それじゃマー君、私の剣を貸してもらえる？」
「いいけど。一体何を……」
「えいっ」

「舐められるといけないから最初はガツンといきましょう、ってガイドブックに書いてあったわ」

「旅のお方、ようこそ冒険者ギルドへ……っ」

「改めまして冒険者ギルドへようこそ」
「どうもお世話になります。あの、大丈夫なんですか？ずっと流血してますけど…」
「あくまで演出ですので。そしてこの私はオブジェクトでありPCでもNPでもありません。よってPKペナルティは発生しません」

「母さん、まずこの3人を仲間にするぞ！一応確認してくれ」
「あらあら、可愛い女の子ばっかりね。どの子もマー君の好みなの？」

「これから一緒に生活して、一緒にたくさんのことを経験して、一緒に成長しましょうって、そういう気持ちで仲間を探すんでしょう？それはもう、お付き合いとか結婚する相手を選ぶのと同じようなものだと思うんだけど」
「そ、それはあながち間違っていない気もするが…」

「じゃそういうことで。次はお母さん面接ね！」