「おはようございます、閣下」
「おはようございます、ミュリン」

「閣下？」
「ヒールが溝にっ…！すみません、気をつけていたのですが…」
「ちょっと待ってください」
「！！」

ミュリン「こりゃ歩けませんね…」

（どうしよう、執務室に行かなきゃだけど、一旦靴を取りに戻って…でも閣下をここに置いておくわけには…）
「・・・・・・」

「失礼します！！！」
「きゃあああああっ！！！」

「（よし！これで閣下を連れて行けるぞ…)って、えぇ―――ｯｯｯ！！」

「すいません！無理ですー！近いーｯｯｯ」
「え！？」

「すいません！お、おんぶでいいですか！」
「へっ！？で、でもちょっと、そんな姿を他の職員に見せるわけには！私もパンデモニウムの長として、執務室の外では毅然とした…」
「でも移動しないと！（見えなきゃ大丈夫見えなきゃ大丈夫）」
「分かりました…」

「うわあああああああ！すいません！やっぱり無理ですーｯｯｯ」
「何なのっ！？」

ミュリン「ヒールってずっと背伸びしてるようなもんですよね。…ボンドでくっつきますかね？」
ベルゼブブ「やめてください」

「ちょっとした曲芸の域ですよね！やっぱ竹馬とか上手くなるんですか！？」

？？？「失礼しまぁ～っす！閣下、新しい式典用の衣装が仮縫いできたから、具合見させてちょうだいな？」

「アタシぃ、パンデモニウム美術関係の一切を取り仕切らせて頂いてま～す！気軽にアド姐って呼んでね～」

「やだぁ、着丈がおかしいわね？――ってスリッパじゃないの！」
「今朝ヒールを折ってしまって」
「あらまぁ！大変だったわね…」
「でもミュリンがいたのでここまで連れてきてもらえました」
「あらぁ？もしかしてお姫様抱っこ？役得じゃな～い。閣下の制服デザインしたの、アタシよ！」
（アンタの仕業かい！！）

「安心して。直しておくわ！」
「ありがとうございます」

ベルゼブブ（いつもは届くのに…っ）

「これですか？」
「…ありがとうございます」
「いえいえ」

（ヒールが無い分、いつもよりミュリンが遠い…）
（ヒールが無い分、閣下がいつもより小さい…）

「閣下」
「はい」
「低いヒールにするのもいいんじゃないですか？」
「嫌です」
「え？」
「だって………」

「おはようございます」
「おはようございます」
「…？なんすか？」
「―――何でもないです」

《視界を切り裂く、真っ白な光。主の放った雷はもろともに直下を断ち、私を堕とした》

『…なんか、雲よりモフいです』
《堕ちたところはある意味、天国より天国でした》

（何を聞かれても”モフみが～”とか”ゆるふわ～”とか言っちゃダメですよ！）
（当然です）

インタビュアー「今回のお話、お受けいただき光栄です」

「魔界の皆さんに一層、パンデモニウムへの親しみを…という企画内容に非常に感銘を受けました」

『なにこれ！モフいですっ！』

インタビュアー「次はえーっと、閣下ご自身のことを少し。休日はどのように過ごしてらっしゃるのですか？」
ベルゼブブ「主に読書や映画鑑賞をしています」
インタビュアー「それは、どんなジャンルでしょうか？」
ベルゼブブ「動物のドキュメンタリーが多いですね。厳しい野生で生きる彼らの姿にはいつも自らの日常を顧みさせられます」
インタビュアー「なるほど～！」
ミュリン（モフみ鑑賞だ）

「それでは次の質問です。閣下のお好きなものは？」
「モフ…」
「！！」
「もふ？」
「モフ…モフ…―――――猛吹雪です。猛吹雪の中心頭滅却することでどんな時も冷静に対処できる平静さを養うのが好きなのです」

「では嫌いなものや苦手なものも伺えますか？」
（思いつかないな。モフみがないもの、とか？）
「…ありません」
「え？何も、ですか？」
「えぇ」
「さすが閣下！それでは普段の執務室の様子をお聞かせください――」
（閣下…？）

「お疲れ様です、閣下」
「本当に疲れました」
「でもすごいですよ、俺も実際近侍になるまでは、閣下のことをクールで寡黙な方だと思い込んでましたから。さっ、行きましょうか」

「…あのね、ミュリン。ミュリンは近侍になって、私にがっかりしましたか…？」
「い、いえ…」
「本当？良かった…」

「か、閣下！次の予定は17時ですから！それまでは自由時間です！俺は一度書類の確認に戻りますけどっ」
「そうですか。では、少し中庭で休んでいきます」
「では後で！！」

（なんかドキドキしたー！外面とか言っちゃったけど…。閣下のゆるふわなところも知ってるのって、身内って感じでちょっと嬉しいな）

ベルゼブブ「嫌いなもの…」

「あ、アニキ！今から外ですか？」
『ああ』
「さすがアニキ！かわいい傘～」

『ベルはどうした？執務室か？』
「いえ、中庭で休憩を」
『ひとりか？』
「はい、たぶん」
『すぐに捜した方がいい』
「！」

「閣下！良かった、雨宿りしてたんですね。さ、戻りましょ…」

「すいません！今すぐ丸ごと乾燥機に入ってくれませんか！」
「なにを言ってるんですかっ？！」

「怖くなんか…ありません…。仮にもパンデモニウムを預かる大悪魔が…雷なんて…」
「！（閣下が震えてる。本気で怖がってるんだ！どうしよう、どうしたら…）」

「きゃあああああああああ！！！！！？」
「わあっ！？すいません！すいません！」
「なんでミュリンが謝るんですかっ！」

「閣下、やっぱり雷が…」
「天界を追われた時、目の前に落とされてからどうしてもダメなんです…。情けないでしょう？笑っていいですよ…幻滅されて当然ですから…」
「そんな！笑いません！おれだってトラウマになりますよ！全然情けなくないです！」
「本当に…？」
「はい！（幻滅っていうか、可愛いって思ったら、怒られるんだろうか…）」

「ミュリン、その、秘密にしてくれませんか？雷のこと…」
「もちろんです。誰にも言いません」

「そう言えば、アニキは知ってたんですね？閣下が雷苦手なこと」
『まぁな、付き合いが長いからな』

（そっか、俺と閣下だけの秘密だと思ってたんだけどな…。あれ？なんでがっかりしてるんだ？）