「薙切。お前もあんま根詰めないで風呂でも入って休めよな」

「別にこれくらい平気よ」

「へへへ、まぁそうだな。俺らの進級はお前にかかってるわけだからな。頑張ってもらうに越したことはねぇもんな」

「君もですからね」

「他人事みたいに呑気だけど君も試験をクリアしなくては駄目ですからね。いいこと？」

「おいおいまさか薙切からそんな事言われるなんてな。合宿の時は君が脱落するのを楽しむウフフフーンとか言ってたのによ」

「茶化さないで答えなさい！今の私はここにいるみんなが学園から去るなんて…」

「とにかく絶対に嫌なの！一緒に２年生になるのよ」

「おう！当たり前だろ」

「食材を確保できても料理を出せなければ意味はないわ。制限時間の日没までもう３０分を切っているのよ！今からまともな品ができるわけが…」

「解凍具合はどうだ？」

「物自体は小ぶりだ。いけるな。半解凍の方が楽だ」

「幸平君とチームを組むことになるなんてね」

「へへ。黒木場。超速で頼めるか？」

「誰に向かって言ってやがる！」

「俺に命令すんじゃねぇ！」

「そりゃ悪かったね！」

「一瞬たりとも滞らない！」
「本当にこいつら即席チームかよ…」

（なんて分厚い厚みの締まりトキシラズの優美で上質な脂だわ）

「よし完成だ！トキシラズの幽庵焼き！」

「さぁおあ…」

「おあがりになって」

「薙切さん今いい？」
「榊さん？」

「ふ～堪能しちゃった。この列車エステルームまであるのね」

「そ…そう」

「そこのマッサージマシンがすごいの。私すごく肩こりする方なのに一気に体が軽くなっちゃった。薙切さんもよかったら使ってみて。疲れが取れると思うから」

「え…ええ。後でね」
「絶対ね」

「集中集中！」
「なんで俺まで…」

トントン
「はい」

「あの～…」
（また来た…）

「これ私の実家から送ってもらった玄米茶なんだけどよかったら飲んで。玄米茶はカフェインも少なくて体にいいからリラックスできると思うんだ」

「それじゃあね薙切さん！明日も頑張ろうね」

「ありがとう」

「よう薙切。小腹すいてねぇか？鮭の皮揚げチップ食わねぇ？」

「君まで来たのね」

「こんなもの…こんなもの～！！」

「ガツン！そして…」

「ふわ～…」

（上質すぎる甘い脂には舌が痺れてくるようなインパクト…ほくほくと身に絡んだタレのまろやかさに柚子の風味がぎゅっと香る！）

（最高に脂の乗ったトキシラズのパワーをひたすらストレートに炸裂させている～！）

「ちょ～っと俺らの事を侮り過ぎたんじゃないですかね試験官さん？少なくとも俺はこんなことじゃへこたれないっすよ。だってこんなの日常の一部っすもん。どんな状況でもいいものを掴むため仕入れと格闘する。そんできっちり皿を出すのが定食屋の仕事だ」

（このおいしさには抗えない！）

「一次試験合格よ！」

「お粗末！」

「２年生への進級試験は毎年北海道で行われるのが慣例となっている」

「ほぉ北海道…」
「地獄の合宿と似たような感じなのかな」

「確かに似ているところも多いが大きく異なる点が一つある」

「それは課題を一つクリアするたびに移動していくということだ」

「南端からスタートし北へ北へと移動を続けながら各地で試練をクリアしていく。北海道の各地に遠月学園の所有する宿泊施設が点在してるからな
「へ～北海道を縦断するってわけか。スケールでけーよ」

「ルートが分岐することもある。そして最後の試験が行われるゴールは北端に浮かぶこの離島」

「今年も北海道の食材がテーマになるのは間違いない。しかし状況が大きく異なる。セントラルによってすべてが支配されているのだから」

「そう。だからこそあなた達は準備をしなければなりません。現地で柔軟に立ち回る準備をね」

「今日から出発までの１週間、私があなた方に対して北海道講座を開きますわ！」

（何その服？エロい！）

「北海道講座？」

「私は幼い頃から全国津々浦々の料理、素材を味わってきました。勿論北海道についても同様。その知識をあなた方に授けます」

「弾丸を増やすのよ！あなた達が試験を戦い抜くための弾丸をね」

「ちなみに！少々厳しめに叩きこみますが一切の弱音は許可しません。ついてこれますね？」