「お嬢様にお手紙が届いております」
「またあの人からなの？仕舞っておいて頂戴」

「一通だけ読んでお断りのお返事を出されては如何でしょう？」

「そうね…」

「”僕は今、愛を知った喜びに包まれている。それが僕を突き動かす。今宵貴方に花を届けます”」

「今宵？」

「これから使者が来るというのかしら？」

「これは…？」

「アレクシス様が昨夜、花を届けに来たと仰っていきなり石を並べ始められたのです」
「そう…」

「変わってはいるけれど面白い男ね」

「気分はどう？」
「…僕は夢を見ているのだろうか？」
「夢ではないわ。傷が痛いでしょう」

「もう一度会って確信したわ。貴方、ハルーシアの太陽の公子、アレクシスね」

「僕も君が誰かは分かっている」

「それにしても、君がどうしてこの夜会に？」
「素敵なお花を頂いたから。そのお礼をしたくて来たの。あなたは私の家のことを知りながらどうして私を好きになったのかしら？」

「エーラムでは家名は関係ない。君と出会って僕の心はときめき、それが愛だと分かった。それが全てだ」

「でも私たちは決して結ばれることはない敵同士」
「そうだけど、愛を知った心には逆らえない！」

「手紙を読んだだけで想いは伝わってきたわ！まるで恋愛劇の台本を読んでいるようだった」

「だけどそれは悲しい結末で終わるのよ…」

「――これがお花のお礼。私の初めてのキスよ。大事にしなくてもいいけれど…」

「これで御終いにしましょう。もう二度と会うつもりはないから」
「君がそう望むなら…」

「でも僕は君を忘れない！君の全てが、僕の心に刻まれているから！」

「殿下はやはりマリーネのことを愛しているのか」

「その御様子でした」
「君たちは殿下とマリーネの馴れ初めは知っているかい？」
「いえ。エーラム留学中に出会われたとは聞いておりますが」
「そう。2人は6年前、そこで恋に落ちたんだ」

ガラガラガラッ

チリンチリン

「何事ですか！？」

「道の真ん中に男が座り込んでいます。身なりからして君主の子弟かと」

「ここは公共の馬車道です。危ない真似はどうかお慎みください」
「石畳に使われている石がとても綺麗なんだ！太陽の光に反射してキラキラと美しくて――」

「僕はアレクシスといいます」
「私はマリーネと申します」

「愛という言葉は知っていました。ですがあなたを見て、それがどういうものなのか初めて知りました…」

「それがあなたの得意な口説き文句なの！？」

「あなたは将来、連合を背負って立つ人物なのよ？それなのに子供たちに銀貨を配るなんて…。あなたは満足かもしれないけれど、誰かに施しを行えば不公平が生まれ次第に統治にヒビが入る事になる」
「君の言う通りかも知れない…」

「でも僕は施しをしているつもりなんてない。彼らは最初、僕が渡すお金だけが目当てだった。でも今はそうじゃない。一緒に歌うことを楽しみにしてくれている」

「どういうこと？」

「施しはただお金や物を与えられることだよ。与えられた人は感謝するけれどそこに喜びはない。人が幸せに生きるには心が満たされないといけないから」
「それは君主の勤めではないわ！」
「僕はそうは思わない。むしろ最も大切なことだと思う。それを忘れた統治はいずれ人々を不幸にすると思うから」

「それは理想に過ぎないわ…」

「たとえその理想が困難なものだとしても、追い続けてさえいれば限りなく近づいていけるんだ」
「…なぜあなたはそんな風に言い切れるの？」

「だってさっきの子供たちは笑ってくれるようになったから！」

「心を満たす統治…」

「私、決めたわ」

「…何を決めたの？」
「あなたの妃になる。どうやら私も貴方を愛してしまったようだから仕方ないわ。何年かかるか分からない…でもきっとあなたを迎えに行く。だからあなたは心変わりしないで待っていて」

「マリーネ！」

「もちろん待つさ！君だけが、僕の心を満たしてくれるのだから！」

「――これが私の知っている2人の馴れ初めだ。政略結婚なら反対だったんだがね」

「本当に愛し合っているのなら一緒になるべきだ。立場がどうであろうと…」

「これはこれは！」

「初めて見る顔だね」

「美しい髪だ」

「腰もよく引き締まっていて、抱きしめたくなるよ」

パンッ！

「あいたぁっ！！」

「触らないでいただけますか？こちらはあなたに興味はございません」
「よくもっ！！」

「おやめなさい」

（アレクシス！？）

「こちらのお嬢さんが嫌がっている御様子。無理強いしてはいけませんよ」

「お前こそ俺の邪魔をするなぁ！！」
ボゴッ

パリ――ンッ！

「アレクシス様！」

「へっへっへ…」

ゴスッ
「ぐあぁっ」