「待ってくれ！見逃してくれ！」
「うるせぇ！！」

「血まみれですな、聖女殿」
「何を見せても無駄です」

「付き従ってくれた方々が手を汚した以上、私とてこの手は汚れています」

「それを恐れたことはありません」

「ではシャルル7世の代理として問わせて頂こう！」

「あなたはその身を投げ出し、戦場に馳せ参じてその手を血で汚しフランスを勝ち取った！」

「そして哀れにも最後は火刑にされた！」

「吾輩からすればそれは裏切りだ！悲劇だ！絶望だ！」

「それでもあなたは主を信じると？」

「あの戦いに意味があったとでも？」

「無論です。私が死んだことは逃れるつもりのない運命。この旗を掲げたとき、故郷で穏やかに死ぬ権利は失われたのです！」

「大聖杯…」
パチパチパチ

「いやぁ～、あっはっは」
「キャスター、シェイクスピア…」

「如何にも！我輩の名はウィリアム・シェイクスピア。しがない一流作家でございます」

「降伏をおすすめします。あなたでは私に勝てない」

「いえいえ、滅相もない」

「お楽しみはこれからだッ！！」

「さぁ開幕だ！席に座れ！タバコは止めろ！写真撮影お断り！世界は全て我が舞台！開演をここに！万来の喝采を！」

「！」

「ここは…私の…」

「マスター！」
「おう…アサシンはどうなった？」

「ああ、霊核を砕いた。あいつは死ぬよ。すぐにな」

「そうか…あと一歩だったんだがな…」

「ん？マスター何…」

「ーーダメか」
「まぁな…」

「だが、お前にはまだ希望がある…ユグドミレニア…あの姉弟と再契約すれば…」

「俺はここが終点で構わない」
「…そんな性分だな」
「死にに来たあんたに負けるさ」

「どーだ？いいサーヴァントだったろ、俺」

「ああ。ここまでこれたのはお前がサーヴァントだったからだよ」

「ずっと…自分に嘘をついていた。俺が求めていたのは後継者じゃない。求めていたのはあの子1人だけだった」
「そうか。俺もだ。俺も、自分が見えてなかった。だけどようやく分かった。父上は星に輝く宝石を求めたんじゃない。道端に転がる石を慈しむために王になったんだ」

「だから俺は先帝の剣なんて夢はもう見ない。もう、必要ないんだ」

「…そうか…良き王になれたのにな」

「ん？なんだ、欲しいのかこれ？」
「そういや吸ったことなかったなーって」

「しょうがねぇな。最後の一本だ」
「サンキュー」

スゥ―――

「げほっげほっ！」

「おいマスター！なんだよこれ！」
「なぁセイバー…」
「ん？」

「楽しかった…か？」

「楽しかったぜ。マスター」

（父上の最期も…きっと）

「ここは…」

「ティフォージュ城の代わり…と申せばお分かりですか？」

「ジルドレの居城ですね」
「如何にも！完全な再現は不可能ですが、まぁこんなものでご勘弁を」
「今度は私の目の前であなたが子どもを殺すのですか？」
「ん？」

「ふははははは！」

「生憎とそれには吾輩よりふさわしい役者がおりまして！」

「ふさわしい者…？」

「まさか！」

「おや？ジャンヌではありませんか！奇遇ですね。どうしましたこんな場所で？」

「もういいでしょう。何を見せられようと所詮は作り物」

「あなたの宝具で私を縛り付けるのもそろそろ限界でしょう」

「確かに仰る通り。しかしひとつだけ間違いを指摘致しましょう。彼は作り物などではありません！」

「召喚に応じ参上しました。私はサーヴァントです。ジャンヌ」

「そんなはずが…」

「ま、外見だけのサーヴァントですが。紛れもないジル元帥です！」
「本当にジルなの！？」

「それよりご覧下さい。生前では得られなかった極上の素材です」

「っ！！！！！」

「お願いジルっ…そんな彼を見せないで！！」

「それはおかしい」
「えっ？」
「主の啓示を受けたあなたはすべての人命を等価に扱わなければならない！なのに何故彼だけを例外にしようと？」

「違う…！それは…」

「その例外こそが愛と呼ばれるもの！この少年に対する強烈な感情です！」

「違います！私に誰かを個人として愛する権利はなく、その意思もない！それは…それはきっと…」

「違う、違うのです、ジャンヌ様、それは違うのです」

「――いや全く仰るとおり。それでこそ聖女ジャンヌ！そんな感情があなたにあるはずがない！人類を愛するあなたが個人を愛するはずがありません。だってそうでしょう？」

「あなたが彼を死地へ追いやった。ここで死ぬと確信していたはずでは？」

「そんな…事は…」

「少年に自由などなかった！少年に選択肢などなかった！」

「彼の力を必要としたあなたが！ここへ呼び寄せたのだ」

「ところで…どうして彼を止めなかったのです？もし愛していたなら足を切り落としてでも止めるべきだったのに」

「気にするな、所詮はホムンクルスだ」

ごろっ…

「いやああああああああああ！！！！！」

「ごめんなさい、ごめんなさい、私がちゃんと伝えるべきでした。あなたの心は、正しいのだと…！」

「おや、抜かないのかい？」

「それを手に取る前にきちんと考えた方がいい」

（そうだ…あなたがその剣を手にすれば最悪の結末を迎える事になる）

「それを手にしたら最後、君は人間ではなくなるよ」
「いいえ。多くの人が笑っていました。それはきっと間違い出ないと思います」

「さぁ、君はどうする？」