「そもそも本当にあんたに身投げなんてできるのか？ひと月も前から毎日そうしていたな」

「死にたいと思っていても地面に叩きつけられたグラサンを想像するとグラサンが震えて…」

「あんた殺し屋だろ？痛くも怖くも悲しくもない、グラサンの割れない死に方知らねーか！？」
「それ殆ど死にたくないって言ってるだろ」

「グラサンだけには生きていて欲しいんだ！」
「グラサン外して死ねばいいだろう」

「そうだ！じゃあアンタに仕留めてもらえばいいんだ！」
「なっ…！？」
「あんたなら痛みも恐怖も感じる間なく俺を天国へ送れるだろ！？」

「ふざけるな。それにどれだけの金が動くと思っている。俺は無駄撃ちはしない」

「獲物を殺る時も女を愛する時もただの一発、またたく間に終わる」
『えぇっ？もう終わりシャチョサン？』
「それが俺の流儀、一発屋イーシンの通り名の由来だ」
「それ馬鹿にされてるよね！早いだけだよね！？」

「じゃあ今ここで死ぬしかねーな…」
「待て待て！じゃあこうしよう、あんたは今からあの高層タワーの屋上へ向かえ」

「あそこでは俺の標的が来日パーティーを行っている」
「ほんとにイノシシだったのね！？」

「俺が合図を送るのが見えたら、あんたは屋上から飛び降りろ」
「落下するあんたが標的と重なった時、一発であんたら二人を俺が射抜く。それでいいだろ」
「無駄に難易度高くね！？」

「つか結局グラサン粉々になってんだけど！！」

「まぁいずれも畜生…事情聴取もできねぇ。とっつぁん、検死結果が見たい。本当の致命傷がどこかにあるはずだ」
「トシ、残念ながらこの傷以外に目立った外傷はねぇ。ただレントゲンで器官に妙なもんが写った…」

「団子状の何かだな」
「いやこれ完全にきび団子詰まらせて死んでんじゃねーか！！！」

「これだから凡人は。それはきび団子ではないきび団子を食べた猿のフンですよ、猿はフンを投げるでしょう？やっぱり猿が犯人だった私は正しかったエリートは正しかったエリート万歳」
「いやエリートの発想じゃねぇし！！」

「アホか、きび団子を桃太郎に食わせるのは普通に考えて爺さんと婆さんだろ奴らは財宝に目がくらみきび団子でヤツを窒息死させたんだ、やっぱり犯人は爺さん婆さんだ俺は正しかったんだマヨネーズ万歳」
「お前がさっき言ってたのちがう爺さん婆さんだよね！？」

「猿です」
「爺さん婆さんだ！」
「猿です」
「爺さん婆さんだ！！」
「猿の爺さん婆さんです」
「爺さん婆さんの猿だ！！」
「いま一回猿になりましたよね？」

「さすが税金でキャバクラ通ってる名上司の言うことは違うな」
「そう言うなトシ」
「講習なんざ受けなくともこちとら毎日現場這いずり回ってるよ」

「デスクワークなんざ机で寝ることと勘違いしてるバカしかいねえからな」

「それに誰が名捜査官だってんだ。家柄だのコネだので上に収まった使えねぇボンボンばかりじゃねーか」
「おいトシ声がデケェよ！」
「聞こえるように言ってんだよ」

「おっとすまねぇ。あんたも名門出のボンボンだったっけ？見廻組局長・佐々木殿」

「心配いりませんよ。真選組副長・土方殿。私が長官になった時にはエリートによるエリートのためのエリートな改革を行うつもりですから」

「さしあたっては居眠りをするバラガキ、副流煙を撒き散らす馬鹿ガキでもクビにしましょうか。ねぇ信女さ…」

「何がエリートの改革だ！てめぇのとこも居眠りこいてんだろーが！」

「居眠りじゃない。早弁」
「どっちもロクなもんじゃねーだろ！」

「悪いが俺も寝ちゃいねーぜ。休み時間友達がいないのをバレないように寝るフリしてただけさ」
「なんで勝った顔！？なんで学校あるある勝負みたいになってんの！？」

「だいたい講習中に携帯いじり倒してる奴にとやかく言われたくねーんだよ！」
「これは講習の内容をメモしているだけです」
「俺だって講習聞くためにタバコふかして頭冴えさせてんだよ」
「しまったゲームオーバーだ」
「お前やっぱ携帯ゲームやってただけだろーが！」

「やかましぃぞテメェらぁぁ！」

「3秒以内に廊下に立たねぇとド頭ぶち抜く」

「一、」
「うわあああああ」

「二と三は！？？？」

「俺たち警察は、どんな闇の中からも真実を見つけ出す義務があるんだからよ」

「と、トシ！！」

「こいつを見ろ、袋だ。やつはおそらく一つたりとも団子を口にしちゃいねぇよ。全部仲間にくれててめぇは草履でも噛んでたんだろう」

「だが仲間は次々に倒れていく。こんなもんを食うほどの男だ。最後まで残っちまったんだろう」

「そっから先は同じだ。生きるためにそういう道を選んだ。こんなズタ袋、よっぽどの覚悟がねぇと食えやしねぇ。よっぽど生きたかったんだろう。死んだ奴の分まで」

「と、トシ…」

「その甘っちょろい妄想があなたの見た現実だとでも？」
「そうだ」

「この現場で見た俺の真実…」
「ブッブぅ～！」

「残念。惜しいところまで行ったんだけどなぁ。桃太郎が殺されたってのは合ってるよ。ただこいつは桃太郎じゃなくてだな…」

ニョキっ

「桃太郎一味を丸のみした鬼ヶ島のボスです」

「桃太郎に化けて人間を食いに出航したところ志半ばで倒れてな」

「ということで」

「正解の犯人は脳腫瘍でぇーす」

「でーすぅー」

「でぇーすぅー」