「嫌よ！絶対いや！だって裸の男同士が絡み合うのを見物するんでしょう！？話を聞いただけで鳥肌が！！」
「それは偏見だよ～」

「なんの話をしてるんだ？」

「皐！明日お相撲観戦に行かない？」

（え！？？）
「断る。なぜ非番の日までお前の顔を見なきゃならんのだ」
「ひっで～！たまにはいいじゃんかよ～」

（ま、まぁ心配しなくてもなっちゃんと皐姉さまの間に何か起こるわけないけど）

（買い物に付き合ってくれればいつでも付き合ってあげるのに…）

「酒が足りんぞ女将～！」

「すみませんね、いま用意させてますんで」

「酌だ酌～」

「はいただいま！」
「おや、新入りさんかね？」
「はい、柚と申します！」
「可愛いねー」

「そっちの可愛いのもお酌してくれや」

「私は配膳係ですので…」
「もうええわ料理なんぞ」

「めんこいのぅ～～グエッヘヘ」

「お酌は任せて蓮は熱燗作っておいで」
「あ、はい」

「失礼します…」
「グエッヘ…」

「いやああああああああああああ！！！！！！！」
ズドドドドドドドドド

「蓮！」
「蓮ちゃん！」
「離してぇぇ！！」

（ハッ！私ったらお客様になんてことを…）

「おいよくも！」

「お客様、此花亭をその辺の色町と勘違いされては困りますな」

「酒の回りがお早いようです。送りの車を手配しますので今日はご自宅でお休みください」

「えぇい！なんだこの宿は！客に対して失礼だろう！女将！なんとか言ってやれ！」

「そこの棗の言った通りでございます」

「お客様お一人でお帰りになるかここの皆様全員、此花亭への出入りを今後控えていただくか、どうぞお決めください」

「「出入り禁止は困る！」」

「一名様お帰りでーす！」

「そうだ」

「蓮にお土産。この間欲しがってた櫛」

「昨日買ってこようか聞いたんだけど聞こえなかったみたいでさ」

「ありがとう…」

「やっと笑ってくれた」
「え？」

「なんか昨日からムッとしててさ、今朝出かけるときも目を合わせてくれないしさ」
「ごめんなさい」

「そりゃ嫌いなお相撲の話は聞きたくないだろうけどさ…」

「蓮の顔見られないの、寂しかったんだからね」

（素直な気持ちを伝えてみてはどうでしょうか？）

「うん…」

「私も、寂しかった…」

「…なんだ、一緒だね」

「うん」

「じゃあね～！僕お風呂入ってくる～！」

「いや～今日も疲れたな～」
「なっちゃんのせいで仕事前に疲れちゃったわよ」
「でも蓮も笑ってたじゃん」
「笑ってません！」
「何があったんですか？」

「それがさ、聞いてよ！蓮のやつ！」
「私のせいじゃないもん！」
「でさ、女将の頭に桶がドバーン！って」
「ふふっ」

「ゆんた大変だ！お尻が二つに割れちゃってるぞ！」

「そんな古典芸に引っかかるな柚」

「えぇっ本当ですか！？」
「ホントだよ！ほらたってみな、やっぱり！」
「うわ～っ！」
（馬鹿みたい…）

「もー可愛いなー」

「からかわないでください！」
「ごめんごめんー」
（本当に、ヘラヘラして馬鹿みたい）

「誰かいるのか？」

「いやっ嫌だ！来ないで！」

「そんな汚れて。それじゃ帰れねーだろ」

『違う、女の子だ』
（スラリと伸びた手足が印象的な男にも女にも見えるその子は）

「むこう向いて」
「え？」
「ほら、洗ってやるから」

「動かないで」

「そうか、男の子にいじめられたのか」

（今までに見たどんな生き物よりも美しく見えた）

「失礼いたします。おかえりなさ――」
「いいよ、もっと強く！」
「こ、こうですか…？」

「きゃああああ！」

「だめええええええ！！！！私のだから触っちゃダメ！！」

「え…？」

（え…え…お、男！？？）

「はああああ！！恥ずかしい！」
「えー！？」

「蓮、覗きはダメだよ」
「何？私が悪いの！？」

「葵ちゃんは将来力士になるのが夢なんだってー」
「半ば諦めていたんですが…」

「棗さんの姿を見て、こんなに細身の方でも強くなれるんだ、と！」

「棗さんは私の理想の兄貴なんです！なのでぜひ、棗兄さんに稽古をつけていただきたく！」

「ちょ、ちょとまって、色々突っ込みたいところはあるんだけど…」

「なっちゃんは女の子です」

「ええええ！？？」
「僕も素人だしさ、本物のお相撲さんの話を聞くために町まで連れて行ってあげたんだよ」

「なーんだ」

「す、すみません、私…あまり女性とお話したことがなくて」
（私を無視していたわけでもない、と）

（なーんだ。全部私の早とちりだったんじゃない）