「去年の大晦日も来なくってねー。あの人、旦那がなくなってからめっきり姿を見せなくなっちまって…」

「おかしな人だったよ、明らかに金もないのにラーメンを私たちに振舞って腹好かせて変えて、きっと寂しかったのかね」

「あの人はラーメンじゃなくて団欒の場所を求めてきてたのかもしれない」

「今頃どこでなにやってんだか」

「遺言通り毎年こうしてありったけのチャーシュー用意して待ってんだけどね」

「はいラーメンいっ…」

「うごおおおお！！」

「何チャーシュー独り占めにしてんですか！」
「うるっせーよ！てめぇは残り汁でもすすってろ！！！
「卵だけは！卵だけは頂戴アル！！！」

「ったくアンタラは…あのじいさんの爪の垢、ラーメンのだしにして飲んだら?」

「あの人もあんたらみたいに元気にしるといいんだけどね…。つい気になっちまってさ…」

「おいおい、なんだあれ？」
「随分若ぇ新入りが入ってきたなー」

「お初にお目にかかる！拙者この度侍に嫌気がさし剣を刺すことをやめダンボールに刺さる道を選んだ桂クズ太郎と申す者！以後よろしく頼む！気安くクズラと呼んでくれ！」

「人生嫌になったにしてはえらく活きがいいなクズラさん」
「クズラじゃない桂だ！！」
「え？」

「そしてこっちは拙者の相棒のクズ…」

「おい、なんでこんなことになった」
「あっちの兄ちゃんは俺たちと同じ目してるな」
「歓迎するぜクズ田さん」

「うっすよろしくー」

「じゃねーだろ一緒にすんな！！」

「宿無しのことは宿無しに聞くのが一番だ…彼らの警戒心を解くための扮装だったがまさか一瞬にして溶け込むとはさすがはクズ時…」
「「ｳｪｰｲ！」」

「嬉しくねーんだよ！！」

「おい、こっちは上手くやっておくから頼んだぞ！紙様の事を！」

「結局俺が馬鹿どもの引率かー。もうやだー、ここ出たら真面目に働こー」

「しかし件の宿無しが幾松殿の親父殿だったとは。人知れず会いに行っていたというわけか。家族を捨てた後ろめたさからその素性を隠して…。だとすればなぜ突然顔を見せなくなったのか…幸せそうな娘を見届けたからか」

「旦那に先立たれ、妙なロン毛に付きまとわれている娘が幸せに見えるか？」
「誰がいつ付きまとった！！」
「うるせーよ、奴らに聞こえたらどーすんだ、突っ込みなれてねーやつが無理すんなよ」

「そうだ！ツッコミならわしに任せておけぇ！」
「あんたはどこに突っ込んでんだ！！」

「違うんだよ長谷川さん、今回コイツが本当に突っ込みたいのは幾松のマ」

「おい、いい加減にしろぉ！こんな馬鹿3人捌ききれるかぁ！」

「うわぁ！！助けてよ！！泳げない！俺泳げないからっ」
「俺がいつ幾松殿のﾋﾟｰとかﾋﾟｰとかﾋﾟｰに突っ込みたいなどと！」

「突っ込んでる暇ねーから！助けるの手伝えよ！！」

「ツッコミならわしに任せておけぇ！」
「なんでぇ！！捌き切れないってもう！！」

「すまんが、このへんの事情に詳しいものはいないか？いろいろダンボール生活について聞きたいのだが」
「ああ、それなら挨拶がてら”かみさま”に会ってくるといい」
「神様？」

「ここら一体の宿無しを取り仕切るダンボールの長でな、紙さまと呼ばれている」

「紙様ならなんでも知ってるし、大概のことは解決してくれるぞ」
「何事ですか騒々しい」

「紙様だ！」
「神様がお越しになられたぞ！！」

「おい、なにやってんの長谷がわ…」
（ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮ）
『皆の者、この者達を即刻このエデンから排除するのです！』
「いや何言ってんの？エデンてなに？」

「オイその通訳やめろ、お前メイドインジャパンだろ？」
（ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮマールシｯマルスィキュラーレ）
『この者たちは災いをもたらす者なり』
「いや災いの語源みたいなやつに言われたくねーよ」

「ねえ、何度でも言うよ。なにやってんの？いい年こいてこんな所でなにやってんの長谷がわ…」
『そのハセガワという死の呪文を唱えるのをやめなさい！』
「てめーの名前だろぉが！そして直接喋れ腹立つんだよなんか！！！」

『下界の常識はここでは通じません。ここはエデン！すべてを解脱した者が集う別世界なのです』

「あぁそう？もう長谷川さんでも紙様でもいいや、どっちもカスだしぃ？」
『誰がカスですか！！』
「あのさぁ、この辺でこの頭巾をかぶっ」
『答えられません』

『ここにいる者達は真の自由人。余計な詮索や過去のしがらみを持ち込むことは許されません!ましてや余所者に話すわけがないでしょう！』

『どうしても我々の仲間になりたいのであれば空き缶30袋、コンビニ廃棄弁当60個を私に供物として捧げなさい！』

「ワカリマスカー？クズ田さんと言ったっけ？ここでは下界で最底辺だった人間こそが頂点に君臨できるのですよー」

『フハハハハハ』
「笑い声くらいてめーでやれよ！！」

「お前に本当にツキが回ってきているならば北斗心軒のツケくらいはチャラになるかもしれん」

「ならんね。それより俺が気になるのはー」

「ヅラ、お前ひょっとして幾松とﾋﾟｰまでいった？」

「はぁぁぁ！？？？な、何をハレンチなことを！恥を知れぇ！」

「いや、妙に肩入れするし最近ラーメン食いに行ったらいっつもお前がいたからよ。そうかーまだかー。てっきりラーメンすするどころか別のもんすすってるかと」

「ふざけるな！！俺と幾松のがﾋﾟｰとかﾋﾟｰﾋﾟｰとか挙句の果てにﾋﾟｰとかするわけがあるまい！！！」
「いや誰もそこまでえげつないこと言ってねーよ」

「プススー。そーかー、そっちはお前昔から奥手だもんなー。この一件ひとあわ脱いで、ついでに幾松もひと肌脱がそうってわけかー。そういうことなら早く言えよ～。キューピットなら格安で請け負うのによ～」
「誰がそんなこと頼んだ！！」

「とぼけんじゃねーよ！お前の好みは熟知してんだよ！」
「意外な弱点が…」
「そういやガキの頃に最初に惚れたのも近所の未亡じ」

「それ以上武士を愚弄してみろ！たとえお前でも斬り捨てるぞ！俺が好きなのは人妻などではない！」

「寝取られだ！！」
「よっぽど武士らしくない性癖暴露してますけど！？」

「そして俺が惚れているのは幾松殿ではない、その蕎麦の味だ！」

「旦那殿から引き継いだものを、俺はその男にもう一度その男に食わせてやりたいだけだ。旦那殿と約束した一杯のラーメン」

「奇特なこって。恋敵との約束守らせるためにひとはだ脱ごうってのか？」

「残念ながら恋敵などではない。そしてなれるものでもない。幾松殿の瞳にはいつもひとりの男しか写っていないのだから」