（抱かれたい男1位。それは男前を売りにする芸能人が欲する栄光。抱かれたいというのはただの好きとは違う。身も心も捧げて構わないという最上級の賛辞だ。この俺、西條高人は抱かれたい男1位の座に5年、なんと5年も君臨し続けている）

（俺の輝かしい栄光のヒストリーが始まったのは、8歳の頃。愛らしい見た目とひたむきな演技を武器に芸能界という戦場に飛び込んだ。子役でちやほやされるのはほんの束の間だ。生き残るためには視聴者はもちろん、仕事をくれる関係者のハートをつかむことも大切だ）

（順調に芸歴を積み重ね、さらに話題の映画で新境地を切り開き、その高度で緻密な演技力を高く評価され、主演男優賞を受賞したとき、俺は芸能界の頂点を極めた。そして今もなお人気と実力を兼ね備え、第一線で活躍し続けている）

（たかが雑誌のランキング。見るまでもなく当然1位は俺だろうが…まぁ一応確認。っ！？？俺が2位だと？馬鹿な！西條高人を超える男がこの世に居るというのか！？)

（1位は一体誰！？コイツは―――…！）

「西條さん！また西條さんと共演ができて嬉しいです！今度は絡みも多いし！よろしくお願いします！」

「（そうだ、お前みたいな大根俺の演技力で食ってやるよ！せいぜい浮かれてろ小童が！）じゃ、来週からよろしくな」

「あ！西條さん！このあと飲みに行きませんか！？」
「えっ」
「撮影始まる前に、また西條さんに色々教えて欲しいなって…」
「おっ、いいじゃない！西條ちゃん、東谷くんにじっくりご教授してやってよ！」
「は？いやでも今日はちょっとスケジュール的に難しいかなー。ねっ佐々木さん？」
「平気だよー！明日の撮影は昼からだし」

（おい、なんだこの行かざるを得ない雰囲気？行かないぞ？誰が敵に塩を送るような真似…絶対行かない！！）
「よろしくなー西條ちゃん」
「よろしくお願いします西條さん！」
「ハハハ、ジャア少シ語ラセテモラウカナ。行コウカ東谷クン！」
「はい！！」

「…ん…。どこ、ここ…？」
「俺のマンションのベッドの上です」
「お前の…？」
「はい。気分はどうですか？大丈夫です？」

「記憶がない…！つか高人！？」
「へへ、高人さんがOKしてくれたんですよ。下の名前で呼んでいいって。証拠！」

『西條さん、あのー、高人さんって呼んでもいいですか？』
『あぁ？安くねぇぞ！呼びたきゃ千円よこせ！』
『安いですねっ！はい千円』
『よし許す！』

『ちょっと抱かれたい男1位になったからって～いい気になるんじゃねぇぞ～？撃たれるってことを俺様がじっくり教えてやんよ～！業界の恐ろしさ、とくと思い知れ若造がぁ～！』

「あれっ、服は？」
「クリーニングに出しました。高人さん、うちに着くなりリバースして。ほら」

「…ちょっと待て、お前、なんでそんなもんいちいち撮ってるんだ？どうするつもりだよその動画…」
「あ。えっと…」
「（酔ってたとは言え菜に喧嘩を売ったのは俺のほうだもんな。やり返されて当然だな…。マスコミにでも流された終わるな…。）人畜無害そうな顔して結構抜け目がないんだな。いいさ、言ってみろよ」
「え、望み？」
「とぼけんなよ！あるんだろ、何か望みが！？俺もどのみちここで終わらすつもりはないんだよ。言えよ、なんでも聞いてやるから！」

「なんでも、ですか…？」
「ああ」
「本当に…？」
「ああ！」

「――高人さんを、抱かせて下さい」
「…………なに？」

「おい、嘘だろ、とりあえず落ち着けって！やめろバカ！！」

（俺は５年も抱かれたい男1位に君臨した男だぞ！それを抱く！？何言ってんだ！？）

「逃げないでください、高人さん。焦らされたら燃える…！」

「俺の望み、聞いてくれるって高人さんが言ったんじゃないですか…」
「だって、無理だろ…ほかにあるだろもっと…」
「高人さんを前にして、これ以上の望みなんか…」
「ま、待てよ…っ」

「やめろ！痕つけんな！明日撮影で脱ぐんだよ！」
「すいません…」

（なんだあいつ…何なんだ…！？）

西条（無理やりキスされた…あんなのは初めてだ。あんな本気のキスは…。いやいやあれは事故だ！気の迷いだ！忘れよう！！）

「調子に乗った若造もムカつくけどな、自分の仕事に自信なさげな役者なんか目も当てられねぇよ！」
「すみません…もっとこうって思うんですけど、全然うまくいかなくて…」
「！―まぁ、飲みなよ東谷君」

「わぁっ、良いんですか！？高人さんと関節キッ…」
「口は付けてないから！！」

「考えんな。前のドラマの時に行っただろう？考えるな、思った通りにやれってな。忘れたのか？」
「忘れてません！忘れませんよ、あの時高人さんに言われたこと。全部覚えてます」
「じゃあその意味教えてやるよ。ムカつくけどな」

「今回はキャストからスタッフまで実力派ぞろいだ。初主演踏むには相当ありがたい現場だぞ」

「そもそもな、お前と一番絡みが多いのは誰だと思ってんだ？舐めるな。お前くらい軽く転がしてやるよ」

「分かりました！ガンっガンに攻めさせてもらいます！」

「西條ちゃん、彼のこと随分いい面構えにしてくれたみたいだけど、逆に食われる羽目にならないよう気を付けてよ？」
「冗談よしてください。役者の俺まで食おうなんて。100年早いですよ」
「ふーん。他はなんか食われたの？」
「えっ！あ、いや！！オヤツをちょっと」
「ふぅ～ん…」

「悪いな、僕は負け戦はしない主義なんだよ。術中死なんかゴメンだ」

「負けたくないから…あんたのこの手が欲しいんだろ？」
「離してくれないか？痛ぇよこの馬鹿力」
「あんたがいれば救える命だ、あんたが欲しい！」
「！！」

（”あんたの腕が”だろ。バカ！）

「ふーん？ねだるだけなら子供にでもできる。僕はこの腕を君にあずけてもいいと思える確証がほしいな？」
「分かった…。次のオペ、見に来てください」
「多少のパフォーマンスじゃ口説かれないよ」
「カーット！OK！」

（本当は気づいてた、初めて共演した時から。やっぱりコイツは怖い…）

「まぁまぁなんじゃないか、さっきのは？とりあえず褒めといてやってもいい」
「それじゃあ…！」
「え！？東谷君！？ちょっ！離してくれないかな！？」
「嫌です」
「どこに連れてく気だ！」
「ちょっとそこまで」

「まぁ東谷くんったらじゃれちゃって」
「微笑ましいわね～」
「おい！離せって！離せ！マネージャー！佐々木さん！！」
「はいはーい？」
「助けっ…」
「佐々木さん！今日高人さんは俺が送ります！」
「あっ、そうー？じゃヨロシク～」

「あーあ、エライのに好かれたなぁ西條ちゃん。ご愁傷様」

「お前！疲れてぐったりしてたんじゃないのか！？」
「はい。半分は。でも後半分は高人さんにムラっとして飛びかかりそうになるのを全力で抑えてました」

「あんたが欲しい。高人さんが、欲しい」

「高人さんを我慢するなんて俺には無理です」
「動画の俺見たろ…？あんな風にやっかまれて、怒るだろ普通？」
「そうですかね？憧れの人からそんな風に言ってもらえるほど近づけたと思ったら嬉しかったですよ、俺」

「もうしばらくはあの動画で飯食えるって思いました」
「俺はフリカケか！…あっいや、つか、ちょっと理解が…えぇ…！？」

「お願いします、高人さん。一度だけ抱かせて下さい」
（抱かれたい男、か。くそっ、女はよく見てんだな…いやいやいや待て！絆されるな！よく考えろ！男が男に抱かれるってマスコミのネタにしかならねぇぞ！言うんだ俺！絶対無理だって！）

抱かれたい男1位「お願いします。良いでしょう？良いって言ってください」

「お前。何がもう一度だけだ」
「すみません！俺、止まらなくて！」
「この天使ヅラした絶倫悪魔が」
「俺若くて！すみません！」
「俺が年寄りとでも言いたいのか？」
「いいえ！」

「全く…抱かれたい男の1位と2位が同じベッドに居るってこれ…最高に不毛だな」

「大丈夫です！俺にとって高人さんは抱きたい男№１です！」
「上手い事言ったとか思ってんならお前呪い殺すぞこの野郎」

「来年はまた俺が1位だ。首洗って待ってろ」
「じゃあ俺は高人さんの中の抱かれたい男1位を目指します！全力で！」
「フンッ！あっそう！勝手にしろよ」
「え！勝手にして良いんですか！？」
「あぁ…主演男優賞とれたらな」
「取ります！頑張ります！」
「ちなみに俺は主演のお前を食うつもりで行く」
「はいっ！」

（くっそ！なんなんだこいつの天使力！？芸能界は食うか食われるか…。東谷准太！次はぜってぇお前を食ってやる！！)