「驚かれてるねぇ、悠人」

「えっと…葦木場さん」

（この人皆から天然だって言われてる人…）

（三年でエース。なんでこの人がエースなんだろ。そういえば話すの初めてだな）

「背高いっすね、前髪うざいっすよ切った方がいいんじゃないっすか？」
「三年負かして天狗になったか？」

「ああ、いえ。すいません」

「三年の前でそんな態度取っていいのか？飲み物片手に背中越しで話して」

「はい、そうっすね…」

（なんだこの人、部室では天然だって言われてんのに妙に言葉に重みがある）

「3年や2年と練習したら終わった後アドバイスをもらいに行けって部の最初に教えてもらったな？何故行かない？」

（説教か）

「いや～俺より弱い人からもらうアドバイスは無いからです」
「誰かに注意されなかったか？その態度」

「いいえ、特に。むしろ堂々としていいって褒められてますよ」

「皆がお前に注意しないのは新開さんって存在があるからだ」

「それ一番お前が振り払いたいやつじゃないのか」

「乗れよバイク、一年新開悠人」

「俺はともに三年間やってきた仲間をそういう風に言われるのはすごく気分が悪いんだ」

「勝負だあの丘の上まで」

「潰してやる」

「いいっすよ、三年葦木場さん。潰し返してやりますよ」

「山岳ラインもう通過したってよ。総北よく追いついたな。ぎりぎり山頂までクライマーが引いて
先頭に繋げたらしい、二年生エース今泉を」

「！今泉？」

「く～～～今泉、今泉！」
「どうした杉本？悶絶？」

「よくやった！よくやったよ今泉！」
「腹でも痛いのか？」

「あと少しだ、頑張れ、頑張れ、頑張れ今泉！！」

「ちょ！人の目考えなさいよ！聞こえるわけないでしょ！」

「届くよ、きっと」

「え？」

「思いはきっと彼らがそれがわかって受け止めて全身全霊で走ってるはずよ」

（頑張って、今泉くん。そしてお疲れ様小野田くん）

「小野田？どうした、明日もレースはあるんだ。下がっていい。もう無駄足は使わなくていい。一体な…」

「これ、忘れてたから」

「託すよ、思い！」

「ああ、託せ！」

「ゴールまであと2キロ、頑張って。大変だと思うけど、あの…えっと…キツイと思うけど」

「下手くそかよ」

「あの…みんなの想いを預けるから！！頑張って今泉くん！」

「ああ！」

「ええでもう、落ちて。君の役目は終わっ…」

（山岳賞、圧倒的不利、終わり…？そうか？）

（この状況ほんとにそうか？）

（追いつかれて並ばれて、殆どゴール前の状況で…箱学圧倒的有利。ほんまに万策尽きたか？）

（いや、違う。この状況…逆や）

（今はゴール前であるとともに山岳賞まで残り４００Ｍや。ひょっとする！）

「誰が落ちてええ言うた？」

「御堂筋くんが」

「君、夢いうんは諦めんほうがええで」
「夢？」

「取ってこい山岳賞」

「え？」

「出ろザク！」

「き～んってなった！」
「はははは、お約束やな小野田くん」

「ゆっくり食べないからさ」

「見ていて、このかき氷経験者杉本輝文を」

「…ってなるんか～い」

「ベッタベタやな～。見とき、これが浪速のスピード食いや」

「あ～～～～～～～！！」

「「はははははは」」

「なんだ？何もないぞ俺は…」

「うっわ、さっぶ…」

ポキッ

（また…この音だ…）