《1月7日、ふー先輩が退院できたのはおめでたい。みんなといると元気が出てくるけど、移さないように気をつけなきゃ…。やっぱり口数が減っちゃう》

《食欲はなかったけど甘酒が美味しくて喉が喜んでた。でも、家で吐いちゃった》

《1月9日、吐き気は酷かったけど部室にいると心がとてもホワホワする。また明日、って言葉が最近好き。約束すれば明日が来ると思えるから。できればずっとこの場所に居たいな…》

《ふー先輩は温泉旅行を提案してくれだけど、今の私の裸を見たらみんながびっくりしちゃう…》

《とても行けない。ごめんなさい》

《1月11日、今日は調子がいい！しっかり休んでいるのが効いたのかも。体を動かせて楽しかった！このまま根性で良い状態が続くかもしれない。他にも体にいいことを色々試してみよう》

《1月13日、胸がとても痛くて、なんだか頭がクラクラする…。多分、みんなと会話が成立してなかったかも…。体、せっかく良くなったと思ったのに》

《1月14日、いっぱい寝て体力を回復させなくちゃ。でも、電気を消して寝るのが怖い。暗いのが怖い。そのまま、暗いものに包まれてしまいそうで》

《1月16日、今日は夏凛ちゃんを傷つけてしまった。でも絶対に言うわけにはいかない》

《ごめんなさい…ごめんなさい…！とても苦しい。体も痛い、心も痛い。グチャグチャになりそう…》

《もうおかしい。私はただ…みんなと毎日過ごしたいだけなのに》

「はぁっはぁっはぁっ」

《弱音を吐いたらダメだ。私は勇者だから。覚悟していたのだから。もう泣かない。頑張れ自分。結城友奈！勇者はくじけない！！》

「初めに、年末に大赦の人たちが私の変化に気づいて家にやってきた。事情は神託や研究を交えて知ったので、神聖な記録として残したいからこの本に日記をつけて欲しい…続くかな？」

「どうしてこうなったのか…」

「自分は大きな戦いで相当無理をしたようで、体中ほとんどを散華してしまった。さらに敵の御霊に触れたことで魂が御霊に吸い込まれてしまった。そこは」

「気が付くと東郷さんを助けに行った場所だった。どこまでも広がる世界――」

「頑張って抜け出そうともがいてみたけど、どこまでもどこまでもどこまでも、そこは広がっていた」

「みんな…助けて…」
「―――人ぼっちになっても、それでも勇者は、それでも勇者は戦うことを諦めませんでした」

「東郷さん…？」
「諦めない限り…」

「東郷さん」
「希望が終わることはないからです…」

「東郷さん！」
「何を失っても」
「東郷さん！！東郷さん！！」
「それでも私の一番大切な友達を失いたくない…！！」

「東郷さんが泣いている…私は…私は…私は勇者だ！」

「勇者は泣いている友達を放ってなんていられない！勇者は根性！絶対、帰るんだ！！」

「カラス…？」

「カラスは私に、ついてこいって言っている気がした」

「だから私は光の方へ、ずっとずっと、進み続けて」

「戻ってくることができたんだ！」

「でも体は違っていた。私やみんなは散華から回復したけど、あれは捧げられた供物が戻ってきたわけじゃないみたい…。回復した体の機能は神樹様が作ったものらしい。それが自分の体になるまで時間がかかった」

「強引な満開をして散華した私なんかは、治すために全身神樹様が作ったパーツになったわけで。大赦では私を御姿、と呼んでるとか。御姿は良く言えばとても神聖な存在なので神様からは好かれるんだそうだ」

「だから私は、私の望んだことが――友達の代わりになることができて、それで世界のバランスが守られた」

「あれから大赦は異変に気づいて、私を調べてくれた」

「分かったのは、炎の世界がある限り、この体が治ることはない、という事」

「そして私はこの春を迎えられないだろう、という事。とても怖いし私のせいで怪我をさせてしまったふー先輩に申し訳ないし、なんだか、トンネルの中にいるような気分…」

「この前さ、ふーが卒業したあともちょくちょく部室に来るって言ってたでしょ？」
「うん」
「私、それ聞いてちょっと嬉しかったの」

「ちょっと？」
「ちょ、ちょっとよ！！」

「……でも、結構…」
「嬉しいよね」
「…うん」

「でさ、私でもこうやってちゃんと気持ちを話すようになったんだから、友奈も話しなさいよ…」

「友奈、年末あたりからおかしいわよ。絶対何かあったでしょう？」

「私が力になる！話を聞かせてくれない？友奈…」

「なんともないよ」

「大丈夫よ！どんな悩みあろうと私は受け止めるから！友奈のことなんだから！」
「夏凛ちゃん…」

「力になるわ！私は友奈のためになんだってしてあげたい！そう思える友達を持てたことが私は嬉しいの！この気持ちを持たせてくれたのは友奈たちなの…」
「夏凛ちゃん…」
「何があったの？友奈？」

「あの…」

「本当に、何でもないんだ」

「そう…」

「夏凛ちゃん…」
「悩んだら…悩んだら相談じゃなかったの？」

「私、友達の力になりたかった…！」

「待って！まって夏凛ちゃん！！」

「っ！」

「はぁっ…はぁ…」

「ごめん…ごめんね…」

「ふっふ～ん」
「風先輩。自然体で大丈夫ですよ」

「いやぁ、ついね！でも最近熱心にカメラ回してるわね」
「もうすぐ先輩が卒業してしまうので。揃っての活動記録は貴重だと思います」

「て言うけどさ、私卒業したあともここに入り浸ると思うわよ」
「入り浸るんだ…」
「そうなる予想はついてたけどね」

「とか言って嬉しそうね夏凛」
「えっ…」

「え、ちょっ、何その反応！？」

「二人を見ていると創作意欲が沸いてくるよ！ねぇサンチョ！」
「（サンチョダンディボイス）」

「その子しゃべるの！？？」
「ふーみん先輩とにぼっしーで想像捗っちゃったから帰って2人の本を書こう～」

「やはり…どう考えても最近の友奈ちゃんの様子はおかしい…」

「あ！大吉だ！やった～！」

「違う！大吉を引いたなら友奈ちゃんはもっとハジけるように喜ぶはず！」

「なのに何故そんなに切ない顔をしているの…？」

「私たちに言えない何かが起きているに違いない！だったら！」

「私が真相を確かめる！！」

カチャッ

がすっ！

（友奈ちゃん…電気つけっぱなしで…）

（黙って入ってごめんね。手がかりは…）

（はっ！あれは！）

（友奈ちゃんが中学入学の時4月3日にイネスでご両親に買ってもらったけれど手に取ることはなかったという百科事典の位置がズレている！！）

「勇者御記…？」

（なぜこんなものが！？多分。いや絶対。これに手がかりがある！でも…）

「うぅっ」

（友奈ちゃん…ごめん。これ借りるね！）