「アーチャー、今なんて？」
「フィオレ様はユグドミレニアの長としてふさわしいのでしょうか？といったのです。」

「なんで…さっきの話し合いだってあんなにしっかり…」
「勘違いされていらっしゃるようですが、私はあの方を自身のマスターだと認めております」
「なら！」
「フィオレ様は、私のマスターは果たして人を殺す覚悟があるのでしょうか？」
「な、なんだよそれ！だって姉さんは獅子号と戦った時…」

「ええ。ですがこう思うのです。あの時マスターが勝利したなら、果たして平成でいられただろうかと。もし自分で直接手をくださなければならなくなったら」
「それは…」
「魔術師とは非常なものです。しかしマスターはおおよそ信じがたいほどに人間らしい倫理観を持っています」

「――昔…犬を飼っていたんだ。どんくさい呑気な犬だった」

「姉さんは熱心にそいつの世話をしていたよ。でも魔術師の家で生き物を飼うなんてどういうことかわかるだろ？だから聞いたんだ。」

「なんでそんなに構うのかって。そしたら――」

（だってペットには愛情を持って接しなければならないでしょう？）

「俺ですらわかっていることを姉さんは分かってなかった」

「姉さんはその場では泣き出すことはなかった。ただ、二人で墓を掘ってやってる時…」

（…なさい…）

（ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――！！！）

「でもなんでわざわざ？戦いが終われば帰還するあなたには無関係じゃ？」

「迷うものを導くことが教師の務めです」
「そっか」
「カウレス殿、私がいなくなればマスターにとって頼りはあなただけです」
「わかっている。姉さんにはきちんと話をするよ。それでもユグドミレニアの長になるっていうのなら、俺が少しは手伝ってやるさ」

「それにさ、弟は姉ちゃんの後をついていく生き物だって昔から決まってるんだ」
「なんと。そういうものですか？」
「そういうものなんだよ。うん」

「なるほど。やはりこの世界は面白い。まだまだ学ぶべきことが残っている」
「かもね」
「私は黒のバーサーカーのマスターがあなたでよかったと思います」

「え」
「おそらくは彼女自身もそうだったでしょう」

「ちぇっ…どこまでも教師なんだなあいつは…」

「フフンフンフンフ～」

「ごきげんよう！！いや～みなさんお揃いで！」

「ハッハ～今日もいい天気ですなぁ！」

「キャスター、お前は知っていたのか？」
「なんのことでしょう？」
「天草四郎の計画に決まっているだろう」

「ああそのことですか。我らは夢と同じもので紡がれ、その儚き一生は眠りに始まり眠りに終わる…。というわけでええ、もちろん知っていました！」

「あれは正気なのか？」

「正気か狂気か。そんなことは些細な問題では？マスターは苦難と絶望の道のりをあゆみあの結論に至ったのです。ならば！吾輩は万難を排してそれを叶えるだけでして！」

「汝の頭がおかしいのは分かっているがそれでもあえてとおう。なぜ知ろうに協力する？」

「それは無論――」

「面白いからに決まってるじゃないですかぁｯｯ！！！」

「何しろ人類救済ですよ！？この世界に住む60億の救済！」

「しかも彼は聖人などではない！」

「彼は戦いに敗北し、無残にすべてを奪われた！」

「だが彼は恨まない！見捨てない！」

「全人類を救うということはそういうことでしょう！！」

「あれ！？もう終わりか？なんだつまらん」
「令呪の転写にどんなスペクタクルを期待していたのですか？」
「どんなってほら…よくあるじゃん！すっげーやつだよ！」

「本当によこすとは、律儀だねぇ」

「残り一画もそのうちくれよ？」
「えぇ！？」
「いいだろ？」
「そんな約束できません！」

「んだよケチ！」
「つぎはあなたです、ジーク君」

「最初の一回と、あの巨人を倒す際の変身一回。合計二回変身していますね。間違いありませんか？」
「あ、ああ」

「令呪はマキリによって生み出された魔力の結晶体。従って、一度力を失えば基本的に消えるはずです」

「消えてはいないな」

「どうした？」
「いえ…」

「残り一画というのが問題です。なのであなたには二画転写しておきました」

「あっズリー！！！！」
「だめ！！」

「どけよ雑魚が！」
「うるさいガサツ者！！」
「んだとてめぇ！」

「まったくもう…」
「ありがとうルーラー」
「二度です」

「え？」
「いいですか、最後の一画は絶対に使用しないでください」

「なぜ？」
「なぜって、あなたの状態は本当に奇跡的なのです！それもおそらくは有償の奇跡！その令呪はなにか大事なものをジーク君から奪い取っています！」

「奪われるようなものなど大して持っていない。この奇跡とは釣り合わないさ」
「それでもです！！」

「ライダー、あなたもきちんとジーク君を監視してくださいね」

「まっかせてよ！マスターは僕が目一杯介護するから！」

「あれ？介護じゃないか。監禁？」

「ハァ…ジーク君、あなたもマスターなんですから、しっかりとライダーの手綱を握りなさい」
「わかっている」

「最後の一画は絶対に使わないでくださいね」

「この世に無償の奇跡などないのですよ」

「なんでここに戻ってきたんだよ！ようやくやわらかい寝床で寝られるかと思ったのに」
「あそこは敵地だぞ、あんなところで眠るバカがどこにいる！」
「でもよ！」

「いいかセイバー、俺たちは確かに連中に協力する。あのままだったらどうしようもなかったからな。だが間違ってもユグドミレニアの連中に好きを見せちゃダメだ」
「そりゃそうだけどよ」

「まぁ聞けって」
「んだよ！」
「まず俺たちは連中とは別行動を取る。ひとかたまりになって動くのは危険だからといえば無効も納得するさ」

「そして赤のサーヴァントがルーラーたちを迎撃している隙を突いて…」

「「聖杯をいただく！！」」

「あっははははははは！！」

「やっぱり諦めてなかったのか！」
「みっともないと思うか？」
「さあな。んなことは叶えられたときに考えることだ」
「そうだな」
「…ひとつだけ、聞いてもいいか？」

「死んだ養子のことを覚えているか？」

「…忘れてはならないものが世の中にはある」

「ふーん。マスター」
「お」

「取ろうぜ、聖杯」

「バカバカしい！なんとバカバカしい！バカバカしすぎて反吐が出るわ！」

「うわっ！？なんだこの有様は！」

「ぬおっ！？」

「ハイどいたどいたー！」
「貴様！」

「ハァッハァッ」

「マスター、持ってきたよ」
「ああ」

「頼む、邪魔しないでくれ、放っておいたら危険だ」

「ほれ！口を開けろ！」

「バカバカしい、こいつは呼吸用の器官が未発達なだけだ。補助用の道具が魔力供給層に設置してある、あれを取って来い」
「え…」

「早くしろ！」
「ぼ、僕とってくる！」

「…なぜだ？」
「何がだ？」
「あなたは俺たちのことを…」

「知るかぁ！カオス！カオス！カオス！カオス！サーヴァント！聖杯大戦！大聖杯！ハッ！くそったれだ！！」

「人類の救済？我々が望んでいたのは天蚕された魔術！召喚された英雄たちによる気品ある戦いだ！」

「なのにどうしてだ…どうしてうまくいかなかったんだ…」
「お前がジークフリートを自決に追い込んだせいか！？」

「分からない…」

「お前のせいだ！だがお前のせいだけじゃない。私は間違っていたのだろうな…」

「そうだ。お前は間違えていた」
「貴様ァ！誰に向かって！」

「頭を切り替えろ、お前は尊大で図に乗りやすく人としてどうしようもないが錬金術師としてはそこそこだ」

「もう少しほかに言いようはないのか！」
「アインツベルンと比較されたくはあるまい」
「我らムジーク家が今度こそ追いついてみせるぞ」

「そのために彼らを救うというのか？」

「それでもいい。そこから新しい何かが生まれるのであれば」

「くだらん無駄話にうつつを抜かしている場合ではない！そこのホムンクルス！」

「ええいややこしいな！お前たちもわかりやすい名前をつけろ！」

「名付けるのはお前の仕事だ」

「くそっ、完全服従させる何かを付け加えるべきだった！」
「お前の腕ではそれも無理だ」
「なんだお前！その態度は！！」